誹謗中傷に飢える男

海沈生物

第1話

 ここ数カ月、毎日SNSで変な男に絡まれていた。その男は、私が「今日の人外の筋肉!」と画像をツイートする度に


『貴方が食べるべきは、肉ではなくコンビニの廃棄弁当だ。スーパーにある半額になった総菜だ。パン屋の捨てられかけた閉店間際のパンだ。決して肉などではない!』


などと誹謗中傷をぶつけてきた。一般的にこのような誹謗中傷を送ってくる相手はブロックするべきである。しかし、私は彼をブロックしなかった。それは彼の誹謗中傷が好きだったからだ。彼の誹謗中傷には、軸のしっかりとした「思想」があった。私はその点を気に入っていた。だから、ブロックしなかったのだ。


 そんな誹謗中傷の男だったが、つい一週間前に死んだ。彼の親族のツイートによると、コンビニの廃棄弁当を食べる女性を助けようとして、殺されたらしい。最期まで「思想」を貫いたその姿勢に、私は解釈一致だと喜んだ。


 ただ「彼が死んだ」ということは同時に「彼の誹謗中傷を送られることがなくなる」ということである。毎日の楽しみであった彼の誹謗中傷がなくなったことで、私は酷い絶望と喪失感を覚えた。それからの私は、まるで飢えた獣のようだった。


 彼のような「思想」のある誹謗中傷を読みたい。どうか、誹謗中傷を送ってほしい。そう強く願った。すると、その願いを神様が叶えてくれたのだろうか。一ヶ月後、知らない人間から誹謗中傷が送られてきた。


 誹謗中傷に飢えに飢えていた私は、すぐにそれを読んだ。


 ……読んで、すぐにブロックした。それは「劣等感」に塗れた、ありふれた誹謗中傷でしかなかった。そこに、彼のような「思想」はなかった。


 私は以前より一層酷い絶望と喪失感を覚えた。心が果てしなく飢えて、数秒後にでも気が狂いそうになった。望むものがもう存在しない現実に耐えられなかった。私は白目になってスマホを床に叩き付けると、喉が搔き切れるほど絶叫した。

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