はずれスキルだったので、脳筋を騙してデスゲームを生き残る!

卯月

生き残ればよかろうなのだ!

「焼き尽くせ、火炎地獄インフェルノ!」


 ゴオオオッ!


 目の前をシャレにならない熱量の炎が通り過ぎていった。

 ノリノリかこの殺人野郎!


「ヒャハハハ、死ね、死ねぇ! オレを認めねえ世界なんかいらねえ!」


 どんな理由か知らんが、うらぶし全開で炎をまき散らすイカレ野郎。

 周囲の自然や建物が次々と燃えあがって背景を一変させていく。


「アハハハ、燃えろ燃えろ、灰になっちまえー!」


 ……いまだ!


 俺は敵の意識が離れた瞬間に賭けて猛ダッシュ。

 からくもピンチを脱することができた。





 ここは某国の研究施設……らしい。

 くわしいことは誰にも分らん。

 俺たちは開発中のVR空間に閉じ込められ、いわゆるデスゲームってやつをやらされていた。

 なんか完成したあかつきには兵士の訓練に利用されるとかって説明だったが、どうでもいい。


 俺がこんな事をやるはめになったのは、ズバリ借金だ。

 ついついFXに深入りしちまって会社の金に手をつけた。500万円ほど。

 会社側は悪評を嫌ってか、金を返せば警察沙汰ざたは勘弁してくれると言った。

 そこで一発逆転を夢見た俺は、あやしげな外国人ブローカーの誘いに乗っちまったんだが……さすがに無謀すぎたか。





 仮宿かりやどとして一時確保した廃病院に帰還する俺。

 女のプレイヤーが出迎えてくれた。


「おかえりなさーい。どうだった?」

「いや収穫らしいものはないよ」

「えーっ、使えない人だねー」

「これでも命がけだったんだよ!」


 不満そうに声をかけてくるのはホスト狂いで夫に捨てられたユミ。

 その奥ですわったままブツブツつぶやいているのは、元社長だがパパ活に全財産突っ込んじまって、今はホームレスのタケさん。

 窓際まどぎわでライフル銃をかまえているのは職歴なしニートの『鮮血の伝説スナイパーBB(痛ネーム)』だ。

 

 ……まったくろくなやつが居ない。そういう人間ばかり集められたのだから。

 某国が開発中のフルダイブ型VRMMO。そのキーワードだけでどんな不具合があるか知れたものではない。

 生きのびたとしても脳に障害が残る可能性は普通にあるだろう。

 だから参加者の条件は『死んだってかまわないような奴』というわけだ。


 俺たちの本当の肉体は今、研究室のどこかで装置を取り付けられたまま放置されている。

 栄養点滴や水分補給なんて気のきいた物はない。

 このまま生きて帰れなければ餓死がし、いやその前に脱水症状でからびて死ぬかも。 


 死んでたまるか。俺にはまだ一発逆転の輝かしい未来があるはずだ!(注:個人の見解です。会社の金を500万も横領したクズの人です。)





「不審者発見!」


 ニートスナイパーBBが俺たちに警告する。

 俺はただちにニートの横に立ち、侵入者の姿を確認した。

 俺たちは一人一個ずつ、特殊スキルを与えられている。

 俺の能力は『鑑定』。

 正直ハズレスキルだろう。短期決戦で活躍するような能力じゃない。

 だがあるものは使う。なにごとも情報収集は重要だ、FXで失敗して学んだ。


 ……筋骨隆々の大男が何か大きなものをぶら下げながら歩いてくる。

 よく見るとグッタリとして動かない人間の男だった。

 あれはさっき俺が焼き殺されそうになった放火魔じゃねーか!

 やべえレベルの強敵だったのに、殺ったのかあれを!


 大男の服装は全裸に白いブリーフ一丁。頭髪は一本も生えていない。

 筋肉モリモリマッチョマンのHENTAIだ。

 スキルは……『全知全能』!?

 

 ふざけんな何だそれ!?


「狙い撃つぜ!」


 ニートスナイパーの銃弾がパンツ一丁のマッチョ野郎に命中した。

 眉間みけんにクリティカルヒット。

 だが、銃弾が刺さらない。なんと銃弾は大男の眉間でベチャっとつぶれた金属片と化し、コロンと音をたてて地面に落ちた。

 

「あー?」


 マッチョ野郎がこちらに気づく。

 小脇にかかえていた男の死体を軽々とかかえ上げる。


 やばい!


 俺はとっさに横へ跳んだ。しかし第二射を狙っていたニートは反応が遅れてしまう。

 直後、超高速で飛んできた死体の直撃を受けて、ニートは絶命した。 


「グゥルルルル、ワンッ!!」


 仲間を殺された怒りにホームレスのタケさんが獣の声をあげた。

 狼男ワーウルフに変身して飛びかかる。


「よせ、無理だ!」


 俺の言葉は間に合わなかった。

 タケさんの鋭い牙が山のように隆起した僧帽筋そうぼうきんに噛みつく。

 だが思った通り歯が立たない。


「キャン!」


 マッチョ野郎の大きな手が、狼男の首をつかむ。


「んー?」


 グチャッ!


 狼男の首がまるでプリンでも潰すかのように千切れ飛んだ。

 残酷な鮮血のシャワーが周囲を赤く染める。

 だがマッチョ野郎の身体はちっとも汚れていなかった。とんでもないチート能力だ。


「ど、どうすんの、どうすんのよ!」


 ユミが俺の肩をグラグラとゆする。

 うるせえ、今どうやって逃げるか考え中だ!

 魔法もダメ、射撃もダメ、近接もダメ……。

 どうしろってんだクゾ!


 俺は一縷いちるの望みをかけてマッチョ野郎に『鑑定』を使いつづけた。

 あんな馬鹿げた能力、欠点があるに決まっている。そうじゃなきゃゲームにならねえ、そうだろう?

 だが『鑑定』によって見ることのできる文字列の内容は、俺の予想をこえていた。


『全知全能:開発者専用スキル』


 ……は? えっ、なに? 

 もしかしてテストプレイ用のチートスキルがスキルガチャに混ざってたとか、そういうバグ?

 ふざけんなクソ運営ぃぃぃ!!

 

 怒り心頭の俺、だがそれでも『鑑定』をつづける。

 それしか出来ることがないからだ。


 全能力値MAX

 全属性ダメージ無効

 全スキル所有

 全アイテム所有

 全体マップ所有

 全プレイヤーマップ表示機能有

 瞬間移動

 外部通信機能


 もはや笑っちまうレベルの好待遇。

 これは無理ゲーだ。

 絶望感を抱きながら最後の一行を読む。

 しかしそこには、まさに最後の希望が記されていた。


 ゲーム強制終了


「こ、これだ! おいユミ、お前の出番だぞ!」


 俺たちは一か八か姿を見せて、無抵抗の道を選んだ。

 そしてユミのスキル『異性誘惑』を発動!

 

「あー? あー? えへへへ……」


 マッチョ野郎の顔がポ~っと赤くなって、デレデレになる。


「ねえおねが~い、『強制終了』のスキルをつかってぇ~ん?」

「えへへへ……、いいよ~」

 

 次の瞬間。俺は光に包まれてゲーム空間から解放された。





「うっ、クラクラする……」


 俺はひどいめまいを感じながら身を起こした。

 みれば周囲の人間たちも似たようなうめき声を出しながら目を覚ましている。

 やった、俺は生還したぞ!

 ざまあ見ろクソ運営!


 歓喜につつまれる俺。

 だが、予想外のアクシデントが俺たち全員の身に襲いかかった。


「ねえー、さっきの女の子、どこぉ~?」


 パンツ一丁筋肉モリモリマッチョマンのHENTAI野郎が、巨体を左右にゆすりながら周囲を見渡している。

 あー、女子は別室だったんだよな。具体的な場所は知らんけど。


「どこおおおおお!?」


 マッチョ野郎が奇声をあげながら暴れ出した。周囲にいた男たちは体当たりや平手打ちなどでブッ飛ばされていく。

 デスゲームが終わったと思ったら、異常者相手の鬼ごっこが開始してしまった。


「ゲッ、冗談じゃねえぞ」


 俺は部屋を飛び出し逃げ出した。

 冗談じゃねえ、あんな奴にかまっていられるか。

 俺には輝かしい未来が待っているんだからな!(注:個人の見解です)

 

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はずれスキルだったので、脳筋を騙してデスゲームを生き残る! 卯月 @hirouzu3889

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