危険なバイト

第1話

　歳を取ると筋肉痛が遅れてやってくると言われているがあれは嘘だ。

　筋肉痛は筋肉を瞬間的に強く使うと早く起こり、ゆっくり継続的に使うと遅れてやってくるだけだ。歳を取ると無理が利かなくって一気に筋肉を使うことが出来ず、結果として筋肉痛が遅れてやってくる。

　引越しのバイトはキツイ、とよく言われるが似たようなものにイベントの搬入出のバイトがある。大人数で行うので手を抜くのが上手だと楽にお金が稼げるが、日当払いで時給換算するとあまり効率は良くない。

　19歳の時、半年ほどイベントの搬入出や設置運営の短期バイトを経験した。

　というのもバイト先の飲食店がタバコが原因で全焼し、建て直し期間の食い扶持を確保するため手っ取り早い日雇い労働に手を染めた。

　短期バイトは若いうちに経験しておくといい、と言われているが確かに人間観察の場としては面白い。

　始めての短期バイトがポルノグラフィティのライブスタッフだった。

　30人程度が昼過ぎに会場に集合、その場で役割分担される。若い男性は会場内で観客の見張り役か座席の案内役に選ばれる。

　見張り役は2～3時間ずっとしゃがみっぱなしで、もちろん振り向いてライブを楽しむなど言語道断。クレームが入るらしくめちゃくちゃ怒られる。

　ライブ終了後に搬出作業開始。21時半終わりなら22時スタート。とにかく運ぶ。黒いトランクケースに入った楽器や機材を複数人でトラックまで運ぶ。搬出口から距離のある上り坂で体力を持っていかれる。

　深夜3時くらいに作業終了。最寄り駅まで乗り合わせだがタクシーを手配してくれた。

　翌朝（もう夕方）体が動かなかった。本当に起き上がることすら出来ない。あの時は全身の筋肉細胞が死滅していた。

　チャゲアスの搬入もやったが、慣れたことを考慮しても搬入の方が楽だった。多分搬入は時間になったら翌日回しに出来るが、搬出は終わるまで帰れないからだろう。