筋トレしようとしたら、事件が解決した。

佐々木 凛

第1話

 ジムで背筋を鍛えている際、警察に動向を求められた。

 といっても、連行されるわけではない。俺は何故か、探偵として名を馳せているのだ。正直、事件など興味ない。早く筋トレしたい。プロテイン飲みたい。

 現場に着いてすぐ、俺を一番慕う若手の鈴木刑事が話しかけてきた。

「被害者は森光。通報者は被害者の交際相手である木村友。そして、その男が容疑者です」

 正直どうでもいい。早く筋トレしたい。俺の背筋が疼く。

「というのもこの男、同棲している橘律子がいるのに森光に手を出したんです。それで揉めて殺したんでしょうね。でも、まだ凶器も見つかっていません」

 鈴木のどうでもいい報告が終わると、俺は金属製のパイプで組み立てられたハンガーラックを見つけた。

 あれなら、強度次第で懸垂ができそうだ。

 そう思ってハンガーラックに手を触れると、思いの外強度がなく、パイプの一本が簡単に外れた。

「さすが中山さん! もう凶器を見つけるなんて!」

 鈴木が駆け寄ってくる。

 俺の手に握られているパイプの先端に血がついている。これで殴り殺したのだろう。

「凶器の指紋を調べたら、木村のものだと分かりました」

「違う、私はやってない!」

 どうでもいい。すっかり背筋が萎えてしまったので、俺はスクワットすることにした。

「中山さんがまだ筋トレを止めない? そうか。凶器からは木村の指紋しか検出されなかった。森の家なのに、森の指紋がないのはおかしい。つまり、これは偽装工作」

「そういえばあのハンガーラック、家にもあったな」

「そうか。木村の指紋付きハンガーラックを橘が持ち込んで犯行に及んだのか。しかし、証拠がない」

 足の筋肉も萎えたので、腕立て伏せでもしよう。

「中山さんがしゃがんで……? あ、戸棚の影にイヤリングが落ちてる」

「律子のです」

「これで決まりですね。中山さん、今回もありがとうございました」


 ……本当の名探偵って、鈴木じゃね?

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筋トレしようとしたら、事件が解決した。 佐々木 凛 @Rin_sasaki

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