陽向が月海を照らす日々。

健野屋文乃(たけのやふみの)

陽向が月海を照らす日々。

その日、わたしは望遠鏡で日食の様子をじっと観察していた。

わたしの名前は月海つきみ

だからと言って、月に対して特別な感情はないつもりだが、やはり心のどこかで意識はしていた。

          

          ☆彡


陽向ひなた作留つくるに最初に出会ったのは、中学1年の時だったと思う。

陽向ひなた作留つくるは同じ小学校で、その小学校のクラスは1学年1クラスしかなく、全員がとても仲が良かった。


わたしは転校生で、陽向ひなたに誘われ、自然とその小学校のグループに入った。陽向ひなたのお蔭で、まるで昔から仲が良かったかのように扱われ、友達なんて一人もいない人生を送ってきたわたしの人生は一変した。


毎日が輝きだした。だから、調子乗ってしまったのかも知れない。


           ☆彡



作留つくるくん、結構、筋肉ついてきたね。カッコいいかも」

陽向ひなたに言われ作留つくるは、満面の笑顔になった。


そう言われた作留つくるは、さらに日々鍛錬を重ね続けた。


作留つくるは、顔つきも逞しくなっていった。


陽向ひなたによって、作留つくるはいい男になったと言っても過言ではない。


少年がいい男に成る過程を見れたのは、感動に値した。


結果、わたしは恋に落ちた。

親友の陽向ひなたが、育てていい男に成った作留つくるに。


恋のライバルとしての陽向ひなたは、同じ年だけどまだ子ども過ぎた。



「わたしたち付き合う事にしたの」

「えっ?」


陽向ひなたは、哀しみと優しさを合わせた表情を一瞬だけした。

作留つくるを奪われた哀しみと、親友に対する優しさ。


その表情は、とても美しく、わたしが100万回生まれ変わっても手に入れない美しさだった。


            ☆彡



陽向ひなたの異変に気付いたのは高校2年の夏。

通学途中の電車の中だったと思う。

隣に座る陽向ひなたをふと見た時だった。

夕日を浴びる陽向ひなたの横顔に憂いを見たのだ。


哀しみを含んだ憂い。


陽向ひなたは、哀しみを含んだ憂いに侵食されつつある。


その事にわたしは気づいた。

わたしにとってこの世で一番大切なのは、陽向ひなたの明るい優しさだと言う事に。


そうじゃない!そうじゃない!そうじゃない!


電車を降りると、陽向ひなたの腕を掴んで、駅のベンチに誘った。

そして、

「わたし、夢を追いたいの。だから作留つくるとは別れる」

わたしの言葉に陽向ひなたは驚いた。

その表情は驚いたものではあったが、あの時の様な哀しみはなかった。


あっそう言う事か!


わたしが欲しかったのは、陽向ひなたの無償の愛情。

陽向ひなたにとって大切な作留つくるを、奪ったわたしでも愛してくれる愛情。それを、確認したかっただけなのかも知れない。



           ☆彡


わたしの夢。それは憂いのない陽向を見る事。


春が訪れようとしている頃、陽向ひなたからメールが来た。


月海つきみのお蔭でわたし、少しだけ強くなれた気がするよ」


少しだけ強くなった陽向ひなたの笑顔は、とても美しく、わたしが100万回生まれ変わっても手に入れない美しさだった。


それは日食の後の太陽の様に力強かった。


           

            完






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陽向が月海を照らす日々。 健野屋文乃(たけのやふみの) @ituki-siso

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