裏切る正義

冬眠

裏切る正義

 僕は、昔はひ弱でよくいじめられていた。

 彼らからしたら、いじっていただけなのだろう。


 僕は、この体と心の弱さに酷く悲しんだ。


 その時、体を鍛えると心も鍛えられると何かの本で読んだ。


 思い返してもバカげていたと思う。


 あまり物をねだらなかった僕が、珍しく親に頼みごとをした。


 少しずつダンベルの重さも増やせた。

 筋肉痛が来ることが喜びに変わった。


 下ばかりしか見れない暗かった過去から一変、姿勢よく前を向けるようになった。

 筋肉が正しくついたことや姿勢の意識をしたことも原因ではあるが、心が前向きになっていた。


 僕は、段々進んで学校に行けるようになった。


 学校が終われば、筋トレというルーティーンが身に着いたのだ。


 そして、学校を卒業する時には僕はがっしりとした体つきになった。

 体とともに心も成長していた。


 日々、努力し続けるというこの経験が僕の忍耐力を鍛え上げたのだろう。


 僕は、新しく目標ができた。


 昔では考えられないことだ。


 昔の自分なら、今生きることにも憂鬱で、あまりにも暗い生き方しかできない人間だった。

 そんな僕が、未来のことを考えられるようになったのだ。


 僕は、大学に進学後、就職をした。


 気づけば忙しさのためか、筋トレが疎かになっていった。


 みるみるうちに僕は、筋肉が落ち太っていった。

 筋トレはせずとも、食事量が変わらなかったためであろう。


 それでも僕は、変わらなかった。


 以前のような暗さなどなく、明るく陽気なただの中年男性へとなっていった。


 明るさのおかげで太ってしまっていても何も気にならなかった。


 僕は、これからもう筋トレはしないかもしれない。


 時間がなく面倒だというためでもあるが、もう暗い自分はどこにもいなくなっていたためである。


 筋肉は裏切らない。


 でも、僕は裏切った。


 筋肉もそれに答えた。


 僕はそれでも変わらない。


 筋肉は少なくなったが、思い出としてこれからも僕と共にいる。


 幸せだ。

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裏切る正義 冬眠 @touminn

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