第一刑ゴミ掃除⑥


猫鬼が放たれる、紅島駆は背後に退く事はしない、爪が頬をひっかく、もしも驚き、怖がり、後退したならば、隙が生まれる、その隙を狙い追い打ちをかける。


そんな事はなかった。


流血がまずは一滴あった、それでもなお、猫鬼の対処を続ける。


「ガバロニャガ!」


光速には決して到達できないだろうが、それでも亜音速はある。


紅島駆はその攻撃に無意識で対応するしかなかった、攻撃はターン制ではない、昔は、妖逆門ばけぎゃもんという和風妖怪カードゲームがあったが、それに近い事を連想する。


使い魔を放たれたならば、使い魔を放つ。


紅島駆が召喚するのは、影から生み出した兎である、ぬいぐるみのような材質だが、それが、猫鬼に立ち向かっていく、だが、猫鬼はただの爪、一薙ぎで倒す。


その次に召喚したのは、影から生み出した狼であった。


猫鬼は、そのまま、影狼の牙に喉元を食いつかれた、だが、猫鬼は牙から離れた。


「ググ、グギャアンッ!」


怒り狂う事を続ける、猫鬼の表情は蒼褪めているという言葉を知らない。


何処田猫丸の猫鬼は、呪詛の歪みとして、完成されていた。到達点であり、一種の芸術である、猫鬼が舌をどこまでも天高く伸ばした後、紅島駆の心臓を抉ろうとする。


心臓を一直線に狙いを定めている、他の肉体の部位を経由しない。皮膚を貫き、肋骨を抉り砕き、その先にある心臓をただ、標的として、攻撃をしていたのである。


だが、紅島駆は影をより増やしていた、影が固形化して盾になっていた、黒い糸を束ねた綿製品のように、しなやかで、それでいて、あらゆる鋼より硬質化している。


猫鬼の舌は限定的で前方だけの結界バリアで防がれた。


影の術、紅島駆の秘匿された異種の呪念だったが、影を支配する、というのは心の闇を制御する事に完全に成功したという事だ、狂気という二文字を失う事により、正気というのを完全無欠に型破りして、会得する事を可能になった、猫鬼の呪術性質は、という新手あらて凶刃きょうじんという今までの象棋の打ち筋から逸脱したような攻撃方法、未知である、未知数である、それを殺害までの段取りとするのだ。


今日日、人間は今日まで生きてきた経験値を、あらゆる人生の糧とする。


幼年期、少年期、思春期、青年期、そして、成人、学生時代、不登校、少年院や刑務所、社会人、仮に親にも不親切なニートであったとしても、経験値は経験値だ。


アインシュタインも18歳まで会得した偏見を常識と呼ぶという。


紅島駆もまた、その猫鬼という呪術が偏見を賜物にした存在と看破した、だがしかし、それは、紅島駆の影の獣を召喚する技のための思考回路に毒を塗った。


目には目を、歯には歯を、猫には、猫を、影で出来た猫を紅島駆は生み出した。

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処刑人探偵 飛瀬川吉三郎 @hisekawa

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