後は身となれ、肉となれ

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　私はご飯を作ることに、あまり興味がない人間であった。料理が苦手なわけではなく、人並みの腕はあると思うのだが、いかんせん一人暮らしで、恋人もおらず、腕を磨いたとて披露することがないのだ。そうなるとやる気がでない。

　なんでも、誰かに見てもらってナンボだと思っている。料理なら食べてもらって、か。

　とにかく、そんなわけで丼とパスタとうどんで献立のローテーションを回していたわけだが、そんな意識の低い私に転機が訪れた。推しができたのだ。

　推しの名前はビッグポット・谷、YouTuber兼ボディビルダーだ。決めゼリフは

「後は身となれ、肉となれ！」

である。

　元々、私は趣味がなくて、休みの日も、家でダラダラ過ごすことが多かった。そのせいで料理だけでなく、何事に置いても無気力というか、何のために生きてるのか、考え出したら眠れなくなるくらいには、楽しくない毎日を送っていたのだ。

　そんな時に、暇潰しに見漁っていたYouTubeで、たまたま彼の動画を見つけて目が離せなくなった。

　日に焼けたムキムキの身体に、パツパツの白いエプロン。太い腕からは想像できない繊細な包丁さばき。そう、彼がアップロードしている動画は、お料理動画なのである。

　彼は自分で作った料理を、ボディビルダーではない中肉中背の友達の男の子に振る舞う動画のみを上げ続けている。そんなに再生回数もチャンネル登録者も多くないが、すでに動画は100以上上がっていて、すべて違う料理を作っているようだった。料理は和洋中なんでも作れるらしい。

　そして、自分はボディビルダーなので、作った料理は食べず、食べている友達の横でプロテインを飲んでいる。

　料理技術は千切りも細いし早いし、飾り包丁もお手のものだし、何より料理を振る舞われる友達はいつも

「うめー！」

とモリモリ食べていたので、味も良いらしい。

　なんでボディビルダーになったかとか、料理の腕はどこで磨いたとか、どういうつもりでこの動画を上げているかとか、そういった情報は一切なく、動画を見ても彼について新しく知れる情報は料理のレパートリーだけであった。

　なので、谷への推し活は動画を見ることと、谷と同じ料理を作ってみることになった。

　無趣味で料理に興味なかった生活から一転、彼の動画を見て、同じ料理を作ることが趣味になったのだ。

　今日は、一昨日上がってたビーフストロガノフの動画を見ながら作る。

　最近、今までより食べ過ぎて、彼の言う通り、着実に身と贅肉となっているのが嬉しいような、悲しいような。

　しかし、致し方ない。これが私の生活を豊かにしてくれる、推し活なのだから。