ふんがー

ハマハマ

君は知っているか

 君は知っているか?

 どれほど願おうとも叶わない事がある事を。



 私は殿下の護衛としてこの世界にやって来た。

 それ自体には全く不満はない。

 それどころか殿下のお側に侍ることに誇りを持っている。


 逞しく力強い私の体。

 死体から剥ぎ取って作られた私の体。


 そのぎだらけの私の体にさえ誇りを持っている。

 うての強者やレスラー達の筋肉。

 その躍動感は素晴らしい。

 逞しさは比肩するものさえない。


 力仕事もなんのそのだ。


 殿下はこの私の不可思議な体を誉めて下さる。

 お前の腕力は素晴らしいと。


 力だけではない。

 様々な人種の肌色がカラフルだと。


 ネグロイドから移植された上腕二頭筋。

 コーカソイドから移植された大腿四頭筋。

 モンゴロイドから移植された大臀筋。

 さらには魔界の生き物から移植されたものまで。


 お前の体は世界平和そのものだと。

 世界中の者がお前の体では相争わず協力していると。



 けれど。

 殿下どころか共にやって来た吸血鬼や狼男にさえ明かしていない事がある。


 私が心から願う事がある事を。

 殿下へ抱く淡い気持ちの事でもない。

 もちろん吸血鬼への妬みでもない。


 狼男だ。


 彼は魔界でも著名な料理人。

 彼の作る料理はとてつもなく美味。


 しかし。

 私は造られた生物。

 食事の必要はない。

 筋肉を維持する為の栄養もカロリーも必要ない。


 彼の作る料理を味わった事はない。

 今後も味わう事もない。


 勘違いしないでくれ。

 私の願いが狼男の料理を食べることだなどと。


 食べてはみたいがそれはただの好奇心。

 心から願うなどということではない。


 私の心からの願いとは――




「ふんがー」


「どうした? 腹が減ってるのか?」



 君は知っているか?


 私が唯一発することができる言葉。

 『ふんがー』とは『Hunger』


 ドイツ語で『空腹』を意味する。


 私の心からの願い。

 それは私を作った博士に文句を言うことだ。


 空腹を知らない私をなぜ『ふんがー』としか話せない仕様にしたのかと。

 

 

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ふんがー ハマハマ @hamahamanji

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