演題は『筋肉』

久路市恵

演題は『筋肉』


 出囃子でばやしが流れる


 舞台には座布団一枚


 本日が初寄席はつよせ


 めくりには「久史家亭市恵」と書いてございます。

 

 久史家亭いう亭号など訊いた事などない、と思ってるあなた、気になさらずにあっさり流してくださいませ。

 

 なにせ初のお披露目、板につく足取りが緊張しておりますようで、


 あらら……ふらついてこけた。


「きゃっ、恥ずかしい」


 真っ赤な顔してやっとの事で座布団に座りましたな。


 さすが、噂どうりの、


「おっちょこちょいがたまに傷」


 の女でありますな。


 今夜の演題は「筋肉」


 筋肉と言いましても、一言でいうには、いささか難しゅうございますな。


 お題が筋肉なんて誰が考えたんでしょうね!


「迷惑千万!何にも浮かでこんがな」


 かと言って何にも書かないわけには行きません。


 筋肉とは……。


 A、体を動かすこと、安定させる事、歩く。走る。座るなどの一環の動作も筋肉が伸び縮みする事で成り立ってる。


「つまり高座まで歩いて座るには筋肉が必要という事ですな」


「だからなんだ!」


 ヤジが飛んできた。


 「いやぁ……だから筋肉のはなしなんですよ。そこのあんた!なにを訊いてんですかね」


 ってお客さんに向かって文句をたれるのが市恵の得意技でございます。


「じゃあ、久史家さんよ、筋肉使わなかったらどうなるんだよ」


「どう見ても私より年下のくせして生意気な客だな。なんて名だ!」


「中戸という者だ。文句あんのか!」


「文句……文句、多ありだよ。」


「文句はいらないから答え言ってみろ」


「一日、3から5パーセント萎縮するんですわ、それくらいは知っておりますわ」


「勉強してんだな」


「それなら、そこの中戸君、筋肉って増えるのか?」


「増えるだろうよ」


「増えたらどうなる?」


「増えたら……」

 

「知らねえって顔してますな」


「筋肉が増えると体内で熱を生み出す力が強くなって体内エネルギーを多く消費されるから痩せやすく太りにくい体になる」


「お後が……よろしい……ようで」





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演題は『筋肉』 久路市恵 @hisa051

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