ある施設の日常?
北きつね
無駄筋肉
同僚には、この筋肉が無駄に見えるようだ。
実は・・・。俺も、無駄だと思える。
養護施設の職員には必要がない。解っている。解っているが、トレーニングを辞めるという選択肢は、俺にはない。
当直で、寝ていた俺は、同僚に起こされた。
「どうしました?」
時計は22時を少し回った時間を示している。
「交代では、ないようですね」
寝ていた同僚も起こされている。
「子供が!年長組が抜け出したようです」
確かに、慌てるには十分な理由だ。年に何回かある。心配をするような事でもない。
「それは」
「これを見てください!」
年長組の女の子の持ち物だ。ノートには、”本屋のおばちゃんの仇を討ってくる”と書かれていた。
本屋のおばちゃん。俺もお世話になった人だ。
数日前に殺されてしまった。施設に、本だけではなく、ぬいぐるみやおもちゃを持ってきてくれる。商店街の会長をしている旦那さんと一緒に殺された。
子供を連れ戻さないと・・・。親が捕まった。子供たちは厄介者になっているはずだ。
「他には?」
「わかりません」
「抜け出したのは?」
「年長組です」
「?」
「全員です」
この時間なら子供は目立つ。人数が多ければ、余計に目立つ。
「わかった。俺が外を探す」
まだ、遠くに行っていないはずだ。門は開けられていない。
門から外に出ると、子供たちが男と話をしていた。
走り寄り、男に頭を下げると、手を上げるだけで名前も告げずに振り返って歩いて行ってしまった。
「お前たち!」
「無駄筋肉!」
「ほぉ。覚悟が出来ているようだな」
体罰はダメだと言われているが、約束を守らなかった者たちには、しっかりと罰を与えて、終わりにする。
俺の考えだ。
頭を軽く殴ってから、連れ戻す。
そして、皆に頭を下げさせる。
理由があった。だから、あまり怒れない。俺たちも同じ気持ちだ。
俺の筋肉は、今回も役に立たなかった。でも、子供たちを無事に連れ戻せたから良かった。
ある施設の日常? 北きつね @mnabe0709
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