賭場

海馬ベルト

本編

1920年頃のアメリカでのことです。

よく整備されたとある街に、禁酒法を破って酒を出す店が多くある通り、通称「ボトルストリート」がありました。それらの店はギャングととても深いつながりがあり、カタギの平凡な男、ウィンストンはボトルストリートにあった一軒の居酒屋で、その店を担当していたギャングの男、レオナルドと知り合いました。レオナルドは博打が好きで、時々自ら賭場を開き、そして青ざめた顔でいつもウィンストンに金を無心する、学ばない男でした。

ウィンストンは東西のボトルストリートともう一つの南北の通り、ジョージアベニューが交差する十字路の南西に建つ アパートの 4 階の見晴らしのいい角部屋に住んでいました。

ある日、レオナルドは言いました。

「お前、いつも賭場に参加しないよな。まあ、カタギが手を出すのも怖いってのもわかるけどさ、もう少し場を盛り上げてくれないか?」

それを受け、ウィンストンは

「でも、賭場の親なのに毎回金をカタギから無心するのはどうかと思うね。僕とキミの仲だから許すけど、これって警察からしてみりゃ恫喝だよ?」

と返しました。レオナルドは、ニヤリと笑って

「そう言うと思ってさ、今夜も賭場を開くんだ。何、今日はこの店じゃない。人もいねえしな。ち ょっと、付いてこいよ」

と言いましたが、ウィンストンは露骨に嫌そうな顔をします。

「ああ、そういやお前は大勢が苦手だったな。酒が飲めるからここにいるだけで。まあ、付いてこいって。俺とお前だけの『賭場』だぜ」

そう言うと彼は、ウィンストンの住む交差点の北西側にあるアパートに向かい、

4 階の角部屋の鍵を開けました。

「ここは組織で借りている部屋でな、ま、違法なモノを溜め込んでたところだ。」

「溜め込んでた?」

部屋は狭く、中央にはテーブル、南側と東側の窓の付近には、花瓶を置くのにちょうどいい高さの空っぽの棚、があ るだけでした。

「ちょっと前にガサが入ってな、残ったのはこいつだけだった。」

そう言って彼が取り出したのは、座る猫の彫刻でした。

「こいつが動くって若いヤツらが言うんだ。だからバチが当たりそうで処分できなかった。無論、こういう仕事に神の加護なんかつく訳はないが、これ以上のバチがあったら俺はもうだめかもわからん。だからこいつが動くかどうか、証明ついでに賭けようじゃないか」

レオナルドが猫の彫刻を倒した状態でテーブルに置くと、ウィンストンは、一回女遊びを我慢すればいいかという考えで、200ドルをテーブルに置きました。

「いつも参加しない「いつも参加しない割に気前がいいじゃねえか。俺はそんなわけないだろうから、400を動かない方に出すぜ。お前はどっちだ?」

そう言って彼は札を4 枚テーブルに置きました。

「そういうのは夢があったほうがいい。動くに2 万だよ」

翌日、サイレンの音で目が覚めると、交差点の南東のアパートの4 階が火事になっていました。

「朝、パンケーキを焼いてる途中に燃え広がってどうにもならなくなったらしい。前途ある若者だったのにね」

隣の部屋のナンシーおばさんが言いました。

レオナルドとの約束の時間に『賭場』を尋ねると、猫の彫刻が起き上がって、部屋の隅、2つの窓の間を見つめていました。

「驚いたな」

レオナルドが漏らします。何か不吉なものを感じたウィンストンは、恐怖でひきつる顔を我慢しながら 400ドルを受け取りました。そして部屋を出ようとすると、レオナルドが引き止めました。

「『賭場』はまだ閉じてないぜ?もう400ドル、動かないに ベット だ。」

そうレオナルドが言いました。ウィンストンは恐怖していましたがその一方で、好奇心を持っていた男だったので、猫の彫像を東側に向け、

「ここから動いたら200だ」

と宣言して帰宅しました。

翌日、北東の建物の下のアパレルの前に、死体が落ちていました。落下による即死でした。警察が規制線を張り、外に出るにも出られない状況の中だったので、結果を先に確認しようとウィンストンはオペラグラスで向かいの家の、『賭場』の部屋を確認しました。

猫の彫刻は、こちらを向いていました。

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賭場 海馬ベルト @gogoohk

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