筋力検査【KAC20235】
あーく
筋力検査
「はい。じゃあ右目をふさいで。これは?」
「……わかりません」
「これは?」
「……わかりません」
「これは?」
「……わかりません」
……わからない。わからないよ。
突然、博士のような先生が教室に入ってきて、大きな紙と、指示棒と、
視力検査でもするのかな? と思ったら、広げられた紙に書いてあったのは、視力検査でよく見るあのC(*2)の記号ではなく、人間の全身の筋肉図だった。
あまりの異常さに教室のみんなもざわざわしていた。
「わかりません」
「はい、筋力0。もっと筋トレしなさい」
「なにもかもおかしい」
「じゃあ、次は左目をふさいで」
「進めるな! 説明しろ!」
「説明? どう見ても筋力検査じゃろ?」
「ちがうだろ! ちがうだろー! 視力検査かと思ったら全身の筋肉の図!? これじゃあ視力も筋力も検査できねーだろ!」
「なんじゃ? この『
「見えるよ! 見えるけど名前が分かんねえんだよ!」
「筋力0」
「絶対筋力じゃないだろ! どちらかというと知力だよ! いや、筋肉の名前だけで知力を測られても困るけど!」
中学校に上がったばかりだからわからないが、中学生はみんなこんなことさせられているのだろうか?
「はい、両目の筋力0。もっと筋トレしなさい」
「やるべきは筋トレじゃないだろ! 暗記だろ!」
結局、答えられないまま次の人へ交代となった。
こんなの答えられるわけがないだろ。
「これは?」
「
「これは?」
「
「これは?」
「
「筋力100」
すごい。さすがクラス長の佐藤君。
彼は定期テストでいつも100点を採っている。彼の知識量には頭が下がる。
僕がわかるのはせいぜい腹筋、背筋くらいだ。
「あ、実は腹筋、背筋という筋肉はないんだよ。正式には
「何で独白聞こえてんの? テレパシー?」
次はアホの木村君だ。絶対答えられないに決まってる。
「えー、三角筋」
すごい! 当たってる! ってかこれカンニングだよね!?
さっきの佐藤君のときと同じ場所を指しちゃだめでしょ!
木村君、頭は悪いけど悪知恵だけは働くんだよなぁ。
「えー、しゅくしょくそうこうきん?」
多分そんな筋肉ないよ!
適当に言って当たるほど筋肉の名前は簡単じゃないと思うよ!
「これは?」
「おっぱい!」
小学生か!
「これは?」
「おしり!」
「筋力10」
こんなレベルで僕より筋力があるのが悔しい。
――絶対筋力じゃないと思うんだけどなぁ……。
次は中山君だ。彼は体力テストでは常に上位をキープしている。
「次は僕だ! 筋力検査と聞いてたっぷり筋トレしてきたぞ!」
ほらみろ! 勘違いする人が出てきてるじゃないか!
「これは?」
「わかりません!」
「筋力0」
可哀想に。筋トレしても成績上がらないんだよ。なぜか。
次はクラスのマドンナ、才色兼備の
「うーん、わかりません」
さすがの優華ちゃんもわからないよな。
「これは?」
「
……なんでわかるの?
「……これは?」
「……わかりません」
「これは?」
「
「筋力30」
なんで二度指したの?
でも同じことを答えられたってことは偶然じゃない。なぜか
向こうで優華ちゃんと友達が話をしているから聞き耳を立てよう。キモいとか言わないでね。泣くから。
「すごーい!どうしてわかったの!?」
「実は私――下腿三頭筋フェチなんだよね~」
「キャー!!」
「キャー!!」じゃあないんだよ。なんだそのマニアックな性癖。
……僕もふくらはぎ――いや、下腿三頭筋鍛えよっかな。
次は
でも、勉強はそこまでできる印象ないんだよなぁ。
「
僕は耳を疑った。
「
なんと、次々と筋肉の名前を言い当てていく!
そうか! 彼女は人のイラストを描いているから、人間の筋肉は全部把握しているんだ!
「
「すげぇー!」
「53万だってよー!」
いやだから、それだとめちゃくちゃ力が強い人に聞こえるんだってば!
てか53万て! どんな採点基準だよ!
かくして、クラス全員の筋力測定が終了した。
「おい! いい加減にしろよ! 筋肉の名前なんて覚えても日常で使わないだろ!」
「なに勉強ができない反抗期の中学生みたいなこと言っとるんじゃ。これはれっきとした筋力測定じゃぞ」
「なにが筋力だよ! 全然筋肉使ってねーじゃねーかよ!」
「いいや、筋力じゃ。『筋(肉の名前を正しく言える能)力』だからのう」
「いや、紛らわしい略し方してんじゃねえよ!」
注釈)
*1
*2 視力検査でよく見るあのCの記号
ランドルト環と呼ぶらしい
*3
手を握る時や、手首を回すときに使う筋肉
*4
ふくらはぎと言われている部分
*5
脇腹の前部分についている表面の筋肉
*6
肘から手首にかけて走る筋肉の一つ
*7
手の親指以外の指を動かすときに使う筋肉
*8
首から背中まで広い範囲にある筋肉
筋力検査【KAC20235】 あーく @arcsin1203
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ゲーム日和/あーく
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 14話
人間AIの観察日記/あーく
★9 エッセイ・ノンフィクション 連載中 29話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます