人工筋肉工場

山野エル

人工筋肉工場

 大きめの黒い書類鞄に車輪のついたようなものが、その小さな機械化集落の入口に数十と殺到した。防衛機械たちがそれらを関知するより前に、書類鞄が弾けるように一斉に開いた。無数の鞄は展開して四つ脚の小型機械に変貌した。

 培養された人工筋肉によって駆動する四つ脚の小型戦略機が、小さな機械化集落の周縁部を飲み込んで防衛機械を無力化していった。あっという間の制圧だった。


「制圧と地図情報の改竄が完了」

〝試験的制圧〟を成功させた男たちは解放された機械化集落の跡地に輸送車で乗り付けると、電子地図を維持し続けるためにその場に留まっている無数の小型戦略機群を見つめた。

「思っていた以上の成果だな」

 ひとりの足元で小型戦略機が犬のように戯れている。

 本屋がもたらした中央都市紙殲隊の航空機搭載の自律演算機構は、情報空間上の地図情報の改竄権限を有していた。それが中央都市への攻撃情報の隠蔽に寄与したのだ。

 しかし、彼らの喜びにすぐに影が差す。

 通信機を切ったひとりの表情が強張っている。

「人工筋肉の培養工場が襲撃された」


 彼らが培養工場に駆け付けた頃には、すでに上空に黒煙が棚引いていて、工場は大きな被害を受けて、火の手が上がっている。工場は自然物に擬態されており、外見上は放棄された畑のように見える。

 被害の報告を受けた男が渋い表情で培養槽の方に目をやった。

「人工筋肉に利用している遺伝子根源試料が持ち去られている」

「中央都市の奴らが?」

「いや……、ここの情報は電子網から隔離されている。人間にしか認識できないはずなんだ」

「おい、これを見てくれ!」

 ひとりが工場の敷地の地面に膝を突いていた。土が吹き飛ばされたような痕跡が残されている。

「浮動車の痕跡だ」

 遠くの空から自律航空機の音が近づいてくる。工場跡地に集まった人々の間に戦慄が走る。

「紙片の束が置き去りにされている!」

 誰かが叫んだのと、自律航空機から高速の飛翔体が射出されたのは同時だった。

 爆発と轟音と炎と黒煙が迸って、人工筋肉工場は破壊された。

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人工筋肉工場 山野エル @shunt13

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