賢い女になれなくても

ある女戦士の独白

 私は冒険の中でしか生きられない女だ。

 もとは代々騎士の家系だったんだが……、親父がへましやがって。

 一人、野に放り出されたわけだが。

 女でも鍛えておけと、バカな親父の教えが役立つとはな。

 今ではちょいと知られた、女戦士だ。

 値は張るぜ、私を雇うには。


 そんな私の前に、あいつは現れた。

 酒場に入ってきたときは、闘犬の群れの中に放り込まれた仔犬みたいだったな。

 鼻で笑ったもんさ。

 でもなあ、雇われちまったもんは仕方ない。


 私はおまえを守った。

 盾となり、剣となり。

 仔犬を守る母犬みたいに。

 

 しかし、二人きりの時間は長すぎた。

 おまえは別世界から来たとか何とか。

 私に気を許しちまって変なこと言いだしたが、そんなことは信じられるもんじゃない。

 笑ったら、すねた。かわいいもんだな、おい。

 仕方ないから、私も身の上話をした。

 おいおい、そんな顔するなよ。

 過去の話だ、今さらどうこうなるもんじゃない。


 やっと探しだしたダンジョンは難解だった。

 賢いやつ雇って出直すか?


 なんだよ、二人でいいって。

 勘違いしちまうじゃないか。

 おまえは元の世界に帰りたいんだろう?

 あっちに残してきた彼女がいるとか。

 ああ、信じてやるさ。

 ここまで来た、おまえの根性見たらな。


 暗い顔?

 ダンジョンの中だからそう見えるだけだ。

 それを言うなら、おまえもな。


 ついにダンジョンの最深部。

 そこにあったのは扉だ。


 じゃあ、ここでお別れだな。


 あん?

 片想い?


 知るかよ、そんなこと。

 ちゃんと決着付けて来いよ!

 おまえは立派になった、私が鍛えてやったんだから。

 誰にも見劣りしねえよ。


 私は行かないよ。

 この世界で私は生きていく。

 ああ、そうさ。

 本当は、お家再興もあきらめちゃいない。

 だから、私は……。


 行け!

 行けよ!!




 私はまた酒場に逆戻り。

 嘘も方便。

 迷い込んだ仔犬を家に帰した、それで満足。


 しかし、今日の酒はなんだか、まずいねえ。


 お、また誰か来た。


 私は高いぜぇ?

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