大学受験にマッスル

坂本 光陽

大学受験にマッスル


 早生まれのせいか、子供の頃から背が低くて痩せっぽちだった。


 体育は苦手だった。腕立て伏せは一回しかできないし、懸垂は一回もできなかった。短距離走と長距離走はビリばかりだし、跳び箱は飛び越すことができなかった。


 体力がなくても頭さえよければカッコがつくのだが、成績は中の中であり、こちらもパッとしない。自分というものに、まったく自信をもてなかった。


 大学受験を一年後に控えた春に、転機があった。テレビを観ていたら、大学の准教授がこんなことを言ったのだ。「筋肉は裏切らない」と。筋肉をつけると、自分に自信をもてるらしい。


 その准教授は逆三角形の見事な体型をしており、自信たっぷりに言い切っていた。


 なるほど、筋肉をつければ、健康体になるはずである。日々のトレーニングによって身につけた筋肉は、努力の証明でもある。目に見える結果は、心と身体を豊かにしてくれるし、それが自信につながるのだろう。


 一念発起して、僕は筋肉トレーニングを開始した。ジムなどに行ったわけでない。自分の部屋で、腕立て伏せや腹筋、背筋などをしたのだ。最初は苦しくて筋肉痛に悩まされたが、半月ほど続けていると身体が慣れてきた。


 筋肉がついてきたのか、しだいに回数をこなせるようになった。筋トレは受験勉強の気分転換にも最適だった。何となく、頭の回転や記憶力がよくなってきたように思える。体脂肪率を測ってみると10%だった。


 やはり、筋肉は裏切らなかった。


 もっとも、大学受験は失敗してしまった。ひどい風邪をひいてしまい、志望校を受験することができなかったのだ。どうやら、体脂肪率の低さから免疫力を落とし、風邪をひきやすくなってしまったらしい。


 自分のバカさ加減に思わず笑ってしまう。筋トレで身に着いた自信のせいか、大学ばかりが進路ではないと思えてきた。筋トレを続けながら、将来設計を考え直している今日この頃である。



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