或いは戦士の岐路

白部令士

或いは戦士の岐路

 初めての町、『喰らえ肉弾』亭という冒険者酒場を探し当てて入る。なにか手っ取り早く金になる仕事はないかと訊ねたが、カウンターで冒険者証を見せた途端、

「随分と細いが、本当に戦士か? こんな板切れ信用出来ないな」

 と、店主に摘み出されてしまう。

「無駄に筋肉付けりゃあいいってもんじゃねぇだろうがぁ。あぁん?」

 店主が完全に引っ込んだのを確かめてから、程々に声を張ってやった。妙に体格のいい、筋肉質の店主だった。あれは、戦士業の元冒険者でまだ鍛錬してますけどなにか? って感じのやつだろう。いや、困るね。自分の経験が全てって系統の人種はさ。

「なに、この規模の町だ。冒険者酒場が一軒だけ、なんてことはないだろう」

 わざわざ口に出してから踵を返した。


 出店で串焼きを買い、食べながら歩く。馴染みのない臭みのある堅い肉だったが、腹が空いていたので構わず呑み込む。

「戦士が細くて悪いかよ」

 そもそも冒険者証の技能職分類ってのがよくないんだ。戦士・僧侶・盗賊・魔法使い、の四つしかないからな。随分と大雑把じゃないか。俺も、戦士で登録してはいるが、金属鎧は着ないし得物は剣で盾なしだから。戦士というよりは剣士なんだよな。

 薄くなった財布を掴み、今度は地酒の出店を覗いた。


 暫く歩き、別の冒険者酒場を探し当てた。中に入ると、カウンター奥に店主らしい半妖精の女がいた。早速、話を切り出す。

「なにか仕事がしたい。金になるのがいい。この町は初めてだから信用はないだろうが」

「信用? それは、ま、これからだね」

 言って女店主が手を出した。そうだった、と冒険者証を渡すと突き返される。

「駄目駄目。先月から、冒険者証が新しいのになったろう?」

「えっ、そうなのか?」

「銅板に情報石をはめ込んだやつさ。技能職分類なんかも細かく記せるようになったのさ」

 女店主に言われ、記憶を辿る。

 そういえば。

「確か、前にそんな計画があったかな。だけど、自称王族が大量発生して頓挫したんじゃなかったか?」

 技能職分類が王族ってどんなだよ。

「だから改良したのさ。自己申告よりも、組合での試験や評価を重視するようになった。で、情報石に入れた内容を、要所に配した情報石柱に集積し、権力機構が監視する仕様にしたのさ。全身像や、これまでに受けた依頼や達成状況、対人殺傷なんかも分かる」

「そ、そんなことに……」

 独り、蓄えが尽きるまでさすらっていたから気付けなかった。組合に顔を出すぐらいはしておけばよかったか。新しい冒険者証、か。『喰らえ肉弾』亭の店主の言いようにも納得がいった。俺は最低限が出来てなかったのだ。

「だが、がちがちに管理されて嫌だな。窮屈だ」

 技能職分類の改善は必要だが、色々とやり過ぎだろう。

「ま、そうだね。時代なのかねぇ」

 女店主が気怠く息を吐いた。半妖精なので若く見えるが、それなりの年齢なのかもしれない。

「冒険者ってのは自由の民でないと」

 呟いた俺を、女店主が興味深げに見やる。

「どうかしたか?」

「いや、同じようなことを言ってた男がいたと思ってね。冒険者をきっぱり辞めて『喰らえ肉弾』亭の店主になっちまったよ。裏で便利屋をやってるって話だ」

「便利屋?」

「無資格の冒険者業ってところかな」

「ほぅ……」

 面白そうな話だ。新しい冒険者証を手に入れる前に、もう一度『喰らえ肉弾』亭の店主に会ってみようか。後は、この女店主が残り物でも食わせてくれればね。

               (おわり)

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