テンプレに出会ったのがもし筋肉の固まりだったら
闇谷 紅
であいがしら
「くそっ」
失態だと僕は内心で臍を噛んだ。
「寝坊」
漢字で二文字の状況が通いなれた道を全力疾走に近い形で進ませている。
「時間的には――」
まだ間に合う。腕時計を一瞥だけして判断する。
「って、今度は何だ!」
再び意識を前方に持って行ったはずのところで胸元が揺れる。胸ポケットに突っ込んでいたスマホの振動だろう。
「ちっ」
用件だけ確認する、そう判断を下したのは無視して緊急案件だった時のリスクを鑑みたから。
「ロクでもないない様だったら、連絡して来たヤツ、殴る」
そう思いつつ着信のある通信用のアプリを起動すれば、普通にロクでもない内容。
「よし、殴ろう」
昨晩のテレビ番組に好きなタレントが出てただのと言う戯言のみだったがために、送信者の顔面へ助走をつけた一撃をくれてやることが決定し。
「おぶっ」
「きゃあっ」
前を見ていなかったのがいけなかった。僕は誰かとぶつかったようで。
「すみません」
反射的に謝ったもののぶつかった先方の感触は固いゴムタイヤだった。
「っ、ええ……と」
大丈夫ですかと、問おうとした。だが、相手の見た目が大丈夫ではなかった。
「筋肉」
一言にすればそれである。少年漫画か何かに出てくる筋肉質を特化したキャラクターがこんなのではないだろうかというガッシリを通り越した体の構造。マッチョ系のキャラは噛ませ犬と圧倒的強者の2パターンが存在すると思ったが、このお方は後者だ。
「何故かウチの女子制服着てるけども」
あ、思わず考えたことが口から出てしまった。ではなくて。
「大丈夫ですか?」
自分の不注意でぶつかってしまったのだ。こう問わなければ僕はこの間読んだネット小説のクソ不愉快サイコパス主人公と同LVになってしまう。
「え、ええ。お気遣いなく。わたしも転入初日で道に迷ってしまった分急いでおりましたから……」
ただ、返ってきた声は鈴を転がすように可愛らしくミスマッチでもあった。
テンプレに出会ったのがもし筋肉の固まりだったら 闇谷 紅 @yamitanikou
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