第二話 君はそのまま変わらないで

「増田くん、私言ったよね。無理しちゃ駄目だって。無理な筋トレはやめてって」

 お蝶夫人がそう切り出した。

「ごめん、心配かけたね。明日からはちゃんとアップしてから無理しないメニューで筋トレを…」

 僕がそう続けるとお超夫人は怒りの表情で僕を見た。


「そんなこと言ってるんじゃないの。増田くんには筋肉は似合わないの。って言うか増田くんは筋肉つけちゃあ駄目なんだから」


「えっ? でも、だって。立原みたいな筋肉が良いんでしょ。言ってたよね、筋肉が良いって」

「ええ、言ったわ。筋肉受けは最高よ。でも増田くんは受けじゃないのよ!」

「えっ…? 何? どういう事」


「増田くんのかわいい攻めが良いんじゃない。普段わんこ系の増田くんが立原くん相手にわんこ攻めに出るのが尊いんじゃないの!」

 僕はお超腐じんの言っている言葉が半分以上理解できなくて混乱してきた。


「増田くんと立原くんはずっと私の押しカプだったんだよ。いつもかわいい系で立原くんにくっついてるわんこみたいな増田くんが、カラミに成ると一転してヘタレ攻めに転じるのをいつも楽しみにして、心の中で砂を吐く思いで見てるんだから」

「僕、そんなに立原にくっついていたかなぁ?」


「ナマモノ萌えの私にとって君たちは貴重な三次元カプなんだから自覚してよね」

「いえ、そんな。自覚してって…出来れば自覚したくないんですが…」


「それが何? 急に筋トレなんて。私はリバ、駄目なんだよね。そんなの地雷じゃない! 固定こそ神。固定しか勝たん! それが何! マッチョ受けのマッチョ攻めってそれこそ地雷なのよ!」

 お超腐人の熱弁が滾る。


「だからね、増田くん。君は君のままで変わらずにいて欲しいの。お願い、約束して」

何か良いことを言っているようで、煩悩爆発の理不尽を要求されていると感じるのは間違っているのかな?


「えっと…、僕は今まで通りが良いってことかな?」

「そう、それが尊いの。立原くんとも今まで通りにね」

「えっ? ああ立原とは友達だからね」

「ホ○ォ…待って…待って。もう無理! ほんと、もうむり…ゴツン」

 汚超腐人おちょうふじんはそのまま白目を剥いて、後ろ向きに倒れて隣のベッドで頭を打った。


 腰痛を我慢して汚超腐人おちょうふじんを抱え起こしてベッドに寝かせながら、僕はため息をついた。

 多分これからも倉科さんとは仲良くやっていけそうな気がするけれど、僕の恋心が届く日が来るのかどうかは未知数だ。

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彼女のために筋肉を ヌリカベ @nurikabe-yamato

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