筋肉の男

チャーハン@カクヨムコン参加モード

レス

 この日、将棋ミステリー同好会メンバー一行は部室に集まっていた。

 彼らの目的は、部長である宮前鈴佐みやまえすずさのご機嫌取りである。彼女はミステリーへの執着が異常に強く、定期的にミステリー要素を摂取しないと暴れてしまう可哀そうな子なのである。


「はぁはぁはぁはぁ……あれミステリーが欲しいよぉ……くれよぉ……」

「落ち着いてください部長。端正な顔立ちが崩れてしまっておりますよ」


 黒と茶色が混じったポニテを左右に揺らしつつ、くりりとした黒色の瞳を左右に絶え間なく動かしている。本人の細い体躯からは想像できない様な雰囲気が辺りを侵食していた。


「うるさいわねぇ……とにかく、あれミステリーが無ければ暴れるわよ!」


 指定制服の袖を無造作に捲りつつ左右に体を揺らしている様は彼女が興奮を抑えられていないことを表わしていた。


「困りましたね、桜江さん」

「困りましたねぇ」


 おかっぱをふわりと浮かせた困り眉の穴山望あなやまのぞむが桜江の顔を見つめる。整った顔立ちが特徴的な桜江薫さくらえかおるは半目になりつつ穴山を見つめている。


 面倒臭いと思っているんだな、と穴山は直ぐに理解した。このままだとミステリーを欲する彼女が暴れだすだろう。そう考えた穴山はとある方法で収めることにした。


「部長、筋肉の男っていう話は聞いたことがありますか?」

「筋肉の男、ね。いや聞いた事が無いわ」

「そうですか、それは良かったです。実はですね、筋肉の男って最近有名なミステリーの話なんですよ。ちょっと軽く話させて頂きますね」


 穴山は説明を開始した。


 とある田んぼが目立つ田舎町。そんな場所にある館には、お化けが出るという噂があった。お化けの正体とされているのは、筋トレをしまくった30代の男だった。

 男は生前オーバートレーニングしたことで体に栄養素が行き渡らなくなり、ウェイト中に事切れたという。

 

 そんなお化けがこの館に居座っているという話だった。ある日、赤無地の服と黒色のロングパンツを身につけている金髪の男が一人でこの館に乗り込んだ。その男は、ある塚の途中で息絶えたという。


 最も、こんな話は存在しない。この話は穴山が作った虚構である。昔書いてあった動画に対して適当な脚色を加えたのだ。勿論、ネットで検索しても内容が出てくるわけがない。


「ふ――ん、筋肉の男ねぇ。あ、出てきたよ」

「……はい?」

「いやだから、穴山君の言っていた内容が出てきたんだって」

「何言ってるんですか?」

「いや、ほら。出てきてるじゃん」


 宮前はスマホ画面を穴山に見せた。そこにのっていたのは、掲示板サイトに書かれた「筋肉の男に迫る! ハラハラドキドキ密着旅!」という全然関係ない物だった。

 部長は機械音痴だったのか?


 そんなことを思いつつ、静かにスクロールしていく。冗談交じりやネットミームとなった内容、AAアスキーアート等の内容が雑多に書かれている中、1つのレスを見た瞬間手を止めた。


444筋肉の男に迫る! ハラハラドキドキ密着旅!

筋肉は素晴らしいです。骨格を一から作り出し生物としての強さを生み出せる。筋肉こそ正義です。筋肉があれば何でも手に入ります。金、地位、名誉。全てを奪い取れるのです。だからこそ筋トレをしましょう。筋トレをしましょう。筋トレをすればすべてが報われます。報われます。むくわれむくわれむくわむくわむくむくむむむむむむむむmmmmmmmmmmmmm

キンニクヲアガメマショウ

 最後に1つ忠告です。私、筋肉は大好きなのですが如何せん馬鹿にさせることは許さないのです。昔、眠り塚の辺りに男を埋めたことがあります。きっと喰われている事でしょう。きっと喰われている事でしょう。故人を馬鹿にしたことの罰です。私の様な神様が下した罰なのです。私に逆らうことは辞めなさい、馬鹿にすることは辞めなさい。さすれば殺されることは無いでしょう。


「………………」

 

 スマホを持っている穴山と後ろで見ていた桜江は内容に開いた口が塞がらなかった。そんな2人の顔を見つつ、宮前が口を開く。


「今回この人物が挙げた眠り塚っていう場所と人物の内容。私が昔見た動画の内容に一致するのよね。まぁ、今はチャンネルからその動画が消えているから真実が分からないけれど、もしかしたら可能性はあるかもね」

「…………そうなん、ですね」

「そうなん…………ですか」


 その言葉を聞いて、2人は戦慄した。もし今回の事件が事実だとして、宮前の言っていることが事実だとすれば――


 今回の事件は完全に霊障と言う事になる。


「まぁ、そんなことわからないし何が真実かもわからない。けどさ、それこそがミステリーだなって私は思うんだよ。だから、今回は合格! 穴山君、良い企画をありがとうね!」


 スマホを回収した宮前は鼻歌を歌いつつ座席に戻っていく。

 そんな宮前の姿を見ながら、2人は恐怖していたのだった。

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