ブロッコリー教筋肉信徒のエルフ

イノナかノかワズ

ブロッコリー教筋肉信徒のエルフ

 あらゆる国々が一堂に兵を注ぎ、争うその戦場にエルフがいた。


 一騎当千を優に超え、一人で一万もの兵を相手にしたというそのエルフの名声は遠くの地まで響く渡っていた。


 しかし、そのエルフとの戦いを遠くから見ていた者はいった。


 頭がおかしくなると。


 そして今日も、そのエルフは戦場を駆ける。



 Φ



「フンッ!」


 刀という極東の武器を手に、戦場を駆ける男がいた。


 雷魔法を身にまとい、鬼のような強さから〝鬼雷〟と呼ばれるその男は、その戦場で確実に名を挙げていた。


 鬼雷は今、英雄と名高い〝屍の王〟と呼ばれる切り殺した。


「これで俺も百傑入りだ」


 刀についた血を振り払い、〝鬼雷〟は切り殺した〝屍の王〟の死体を蹴った。


 百傑。


 それはこの戦場においての誉れ高い栄光。幾万を超える猛者たちの百の頂点。


 その栄光を手にしたものは、万もの富を手にし、生涯、栄光に満ちた人生を送るだろう。


 多くの武者の夢だった。


 〝鬼雷〟はそれを手にしたのだ。


 だが、〝鬼雷〟はそれでは満足しない。


「俺は、百傑の王となるのだ。立ち止まっていられない」


 だから、〝鬼雷〟は刀を手に、駆けだそうとした。


 多くの命を奪い、血肉に上に築き上げられた玉座に座るのだ!


 だが、その時、


「おい、そこのお前。墓は建てないのか?」

「ッ!!??」


 上から、巨躯の男が降ってきた。


「エルフ……か? しかし……」


 〝鬼雷〟は息を飲む。


 尖がった耳に植物が編みこまれた金髪。確かに目の前の巨漢はエルフの特徴をもっている。


 しかし、その体。


 そこらの男でも敵わないほどの筋肉。圧倒的な、筋肉!! 逞しく大きい筋肉!!


 ぶっちゃけ、生物がいるというよりも、筋肉が生きているという錯覚すら感じてしまう。


 筋肉! 筋肉!! 筋肉!!!


 華奢で美しい顔立ちをしていることで有名なエルフとはかけ離れた体躯に、〝鬼雷〟が呆然としてしまうのも仕方ないだろう。


 巨漢のエルフが言った。


「なぁ、お前さん。〝屍の王〟の墓を建てないのか?」

「……なぜ墓などというものを建てなければならん」


 驚いたものの、〝鬼雷〟は刀の柄に手をかける。


 そして、すぐさま抜刀。


 邪魔な巨漢のエルフを切り殺そうとした。


 〝鬼雷〟は切り殺したと思った。


 なのに、


「食事をする以外で命を奪っておいて、墓も建てないなんてのは、恥知らずが過ぎないか? 小僧よ」

「ッッッ!!!」


 巨漢のエルフの服が吹き飛んだ。パンツ一枚!!!!


 サイドチェスト!!!! 大胸筋が羽ばたいてるぞ!!!!!


 〝鬼雷〟の刀が巨漢のエルフの筋肉に弾かれた。カンッと甲高い音が響いた。筋肉なのに!! 筋肉なのに!!!


 〝鬼雷〟は驚き、呆然とし、混乱する。


 何にツッコめばいいのか、分からなくなる。


 巨漢のエルフはキラリと白い歯を光らせ、笑う。


「そもそも、食べる以外で命を奪うこと自体が悪!!!」

「ッッァァアア!!!」


 ダブルバイセップス・バック!!!! 背中に世界樹を背負ってんのかい!!!!


 巨漢のエルフが全身から放った魔力衝撃波によって、〝鬼雷〟は吹き飛ばされた。


 どうにか受け身をとったが、魔力衝撃波によって〝鬼雷〟の内臓は少なからずダメージを負った。


「ここは戦場だぞ!! 殺すことが正義であり、誉だぞ!!!!」


 こんなわけもわからない奴に傷を負わされた。


 その事実がひどく自分を辱める。〝鬼雷〟は憤った。


 まるで雷神が宿っているかのように、〝鬼雷〟は無数の雷を巨漢のエルフに放った。


「いいや、違う! 違うぞ!!」

「ッッッ!!!」


 ぬぅんッッッ!!!


 ダブルバイセップス・フロント!!!! これこそ二頭の新世界!!!!


 巨漢のエルフから濃密な魔力が放たれ、無数の雷が全てかき消されてしまった。〝鬼雷〟が驚く。


 が、まだまだ驚くのは早い。


「誉とは、筋肉!!!! そして、その筋肉を創造するブロッコリー神に祈ること!! それが戦場の正義である!!!!!」

「なぁぁぁッッッ!!」


 モスト・マスキュラー!!!!! 天使も召される大胸筋!!!!!


 巨大なブロッコリーが巨漢エルフの後ろから物凄い勢いで生えてきた


 しかもだ。


「ぬぅぅんっっ!!! あ~それッッ!! あ~そらよッッ!! 偉大なるブロッコリー神様!!!! 筋肉その神様!!!」


 巨漢のエルフは巨木のブロッコリーを引き抜き、ダンベルのようにぬんっ!ぬんっ!と持ち上げたのだ!!!


 〝鬼雷〟は訳の分からさに座り込む。


 そして巨漢のエルフが叫ぶ!!


「筋肉は素晴らしいぃ!! ブロッコリーは素晴らしいぃぃ!!」


 巨木のブロッコリーを高く放り投げる。


 サイドトライセップス!!! 筋肉最高ぅぅぅ!!!!


「ほら、小僧も一緒に!! 筋肉は素晴らしいぃぃ!! ブロッコリーは素晴らしいぃぃ!!」


 筋肉、ブロッコリー、筋肉、ブロッコリー、筋肉、ブロッコリー!!!!!!


 小さなブロッコリーが〝鬼雷〟の周りににょきにょきと生えてくる。ブロッコリーたちが筋肉と合唱する!!


 落ちてくる巨木のブロッコリをキャッチした巨漢のエルフが叫ぶ!!! キラリンッと白い歯が光る!!!


「筋肉は素晴らしいぃぃ!! ブロッコリーは神だぁぁ!!」

「きんにく……ぶろっこりー……」


 〝鬼雷〟の脳内に筋肉とブロッコリが侵食し始める。


「筋肉は至高だぁぁぁ!! ブロッコリーは世界を統べるぅぅぅ!!!」

「筋肉……ブロッコリー……」

「筋肉は最強だぁぁぁ!!! ブロッコリーは宇宙を超えるぅぅぅぅ!!!!」

「筋肉、最強……ブロッコリー、超える……」

「筋肉は素晴らしいぃぃぃ!!! ブロッコリーは素晴らしいぃぃ!!!!」

「筋肉は素晴らしい……ブロッコリーは素晴らしい……」


 ぬぅんっっ!! 生えろブロッコリー!!!


 ぬぅんっっ!! キレてる筋肉!!!


「筋肉は素晴らしいぃぃ!! ブロッコリーは神だぁぁぁ!!!」

「筋肉は素晴らしい。ブロッコリーは神だ」

「筋肉は素晴らしいぃぃぃ!!! ブロッコリーは素晴らしいぃぃ!!!!」

「筋肉は素晴らしい! ブロッコリーは素晴らしい!」

「そうだ、そうだ。キレてる、キレてる!! このまま鬼神を背中に宿すぞ!!!」


 ダブルバイセップス・バック!!!!!!!


 仕上がってるよ!! 仕上がってるよ!!!!


「筋肉は素晴らしいぃぃぃ!!! ブロッコリーは素晴らしいぃぃぃ!!!」

「筋肉は素晴らしいぃぃぃ!! ブロッコリーは素晴らしいぃぃぃ!!」

「筋肉は素晴らしいぃぃ!!!! ブロッコリーは神だぁぁぁ!!!!」

「筋肉は素晴らしいぃぃ!!! ブロッコリーは神だぁぁぁ!!!」


 〝鬼雷〟の服が破れた。


 細身ながらも鍛えられた筋肉が脈動する!!!! ブロッコリーがそれに合わせてさらに生えてくるッッッ!!!!


「さぁ、一緒に叫ぶぞ!!」


 巨漢のエルフが巨木のブロッコリーを空高く放り投げた。


「筋肉は素晴らしいぃぃぃ!!! ブロッコリーは最高だぁぁぁぁ!!!」

「筋肉は素晴らしいぃぃぃ!!! ブロッコリーは最高だぁぁぁぁ!!!」


 せぇのッッッ!!!


 「「サイドチェストぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」」


 そして今日もブロッコリー教の筋肉信徒が生まれた。










======================================

読んでくださりありがとうございます。

面白い、爺ちゃんいいキャラしているなどと、少しでも楽しんでいただけましたら応援や★、レビューや感想をお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ブロッコリー教筋肉信徒のエルフ イノナかノかワズ @1833453

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ