ショベルカーの誇り 🚧

上月くるを

ショベルカーの誇り 🚧





 あざやかに黄色いボディに真っ赤な口のショベルカー。

 生産工場から工事現場へ、トレーラーで運ばれました。


 待ちわびていた工事スタッフの男たちは、ピッカピカの雄姿に大よろこび。

 代表して現場監督が「われわれの仲間にようこそ」歓迎の辞を贈りました。


 そうか、おれは社会の役に立っているんだ……ショベルカーは大張りきり。

 暑い太陽に照らされて、雨や風や雪や霰に打たれて、せっせと働きました。




      👷




 それから、昼と夜をいくつ重ねたことでしょう、あんなに輝いていたボディは見る影もなくよごれ、薔薇の花より赤かった口は泥にまみれ、無数の疵がついています。


 現場監督をはじめ、もうだれひとりショベルカーのことを気にかけてくれません。

 いつもおとなしくそこにいて、黙々と穴を掘るのが当たり前とされておりました。




      🍃




 幼稚園が春休みに入った日、ひとりのスタッフが小さな子を連れて出勤しました。

 おとうさんが働いているところをどうしても見てみたいと、少年が頼んだのです。


 自家用車の助手席から、可愛らしいスニーカーをピョンと土におろした男の子は、しばらくもの珍しそうにあたりを眺めていましたが、とつぜん、目を輝かせました。


 

 ――やあ、ぼくのショベルカーだ!!ヾ(@⌒ー⌒@)ノ



 赤ちゃんのころから乗り物のおもちゃが大好きだった少年の一番のお気に入りは、黄色いボディに赤い口、そう、工事現場の重機にそっくりのショベルカーでした。


 少年は泥まみれのショベルカーに駆け寄って「うわあ、大きいねえ、立派だねえ」愛しそうに頬ずりしました。久しく褒められたことがない身のドギマギは……。💚


 こんなによごれたままではかわいそうだよ~、男の子に口をとがらせられた父親がていねいに洗ってやると、黄金と深紅にきらめくショベルカーがよみがえりました。



 ――うわあ、ますます立派になったねえ!!(´ω`*)


 

純真な男の子の心からの礼賛を聴いて、ショベルカーは自分の幸運に感謝しました。

少しにじんだ春の太陽は、あたたかくあたたかく、あまねく地上を照らしています。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ショベルカーの誇り 🚧 上月くるを @kurutan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ