妻、アブダくられる

タカハシU太

妻、アブダくられる

 深夜に仕事から帰宅すると、珍しく妻が起きていた。

 妻の日課は夜にウォーキングをすること。だが、この数週間、いつも先に寝ていた。

「今日、病院に行ってきたの」

 ダイニングのテーブル前に座っている妻は無表情で、私に目を合わせてこない。心がざわつく。

「どこか悪いとこでもあった?」

「……妊娠してるって」

 私の中で、何かが跳ね上がった。

「どういうことだよ? 俺とは、ずっとしてないだろ」

 妻は無言のまま。

「誰の子だよ?」

「誰ともしてないって! でも、様子がヘンだから、精密検査を受けるよう言われた」

 妻は初めて私の目を見返してきた。

「ほら、一か月前、ウォーキングの帰りに、空からまぶしい光がいきなり降り注いできたって、話したでしょ? あれからなの」

「またその話か。警察もおかしなことは、何もなかったって言ってたじゃないか」

 妻は謎の光に包まれ、意識を取り戻した時には、路上で倒れていたという。怪我はない。もちろん、謎の光なんて目撃情報もない。

「だけど、夢に現れるの。巨大なカニか、エビか、虫みたいな気持ち悪い生き物に襲われて」

 マンガやアニメじゃあるまいし。体より、心が疲れているのかもしれない。

「ウッ……」

 妻がいきなり口を押えた。

「横になるか?」

 私はテーブルを回り込み、支えた。口を押さえていた妻の指の間から、緑色の液体があふれ出てきている。

「救急車を呼ぶか?」

 妻は口の周りを緑色にしながら、表情を歪めた。

「違う! 下から何かが来る!」

 お腹を押さえてい妻が、床に崩れ落ちた。

「おい! しっかりしろ!」

「来る! 来る! 来る!」

 白目を剥きながら痙攣する妻を必死に揺すった。とにかく救急車だ。私はスマホを取ろうと、離れた。

「ぐあああっっっ!!!」

 人が発するものとは思えない響きが背後からした。私は恐る恐る振り返った。

 妻のお腹が破裂しており、中から巨大なカニか、エビか、虫みたいな生き物が現れた。

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