孤独好きな僕は一人になれない

kou

孤独好きな僕は一人になれない

 夜は昼間と違い肌寒い。

 岩下いわした浩一こういちは孤独が好きだった。

 特に真夜中の散歩は、世界に自分一人だけが居るような感覚に陥る。

 そこは街の郊外にある自然公園だ。

 けれど、その日は人と出会った。

 ガサッと物音がしたかと思うと、ハイキングらしい軽装の女性が木陰から現れたのだ。

 彼女は驚いたようにこちらを見つめていた。

「助けて」

 彼女の声は掠れており、怯えているようだった。

 どう見ても遭難者といった様子の女性を見て、さすがに放っておくことはできなかった。

 浩一は自分の上着を脱ぎ、彼女を病院へと連れていくことにした。

 彼女は女子大生で名前は高峰たかみね明璃あかりといい、山歩き中に道に迷ってしまい、遭難してしまったのだという。

 だが、その日から浩一は明璃につきまとわれることになる。

 それは困る。

 はっきりと拒絶しても明璃はめげずに浩一の後を追いかけてきた。

 それどころか、浩一の趣味である車中泊にまで押しかけてくる始末だ。

(二人で車中泊って……)

 かなり迷惑だったが、なぜか明璃を追い返すことができない。明璃もアウトドアが趣味だけに気が合ってしまったからだ。

 明璃との会話の時間は楽しい。

 だが、浩一は孤独を愛していた。

 星空を眺めながらコーヒーを口にしていると、隣に明璃が座る。

「寒いですね」

 明璃の呼びかけに、浩一は曖昧に笑って、距離を取るように少し離れる。

 すると明璃は不満そうに頬を膨らませると、飛びつくように浩一の腕を取ってきた。

 柔らかい感触が腕に触れる。

「こうした方が暖かいですよ?」

 悪戯っぽい笑みを浮かべた明璃の顔が間近にあった。


 ◆


 浩一は子供を抱いていた。

 隣には明璃がいる。

「まだ孤独になりたい?」

 優しい声で尋ねられる。

「いや。孤独になるのは死んでからもできるから」

 それに、と浩一は思う。

 この温もりを失ってまで独りになろうとは思わない。

 だってもう、僕は独りじゃないんだから。

 浩一は、そっと妻を抱き寄せた。

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