内緒話

 「……ただいま」


 暗く神妙な面持ちで絢斗は寮へ帰宅した。

 腕時計は結局断れたが、舞子から貰った菓子を持ち帰る様子を亮磨は気づく。


 「……絢斗おかえり」

 「起きてたのか。

  ん、亮磨もなんか暗いなあ。どうしたの?」


 彩智にアタックしようとして、覇気によって何もできなかったと言えない。

 しかもその彼氏がいる前でアタックしようとしたことさえも言えない。


 「何でもないよ」

 「何かはあるんだよな。なあ?」

 「そういう絢斗こそさっきからしつこいっていうか、なんか変だぞ」

 「……」

 「絢斗こそ、じゃなくて絢斗は何かあったんだろ?」

 「……」

 「帰って早々俺にばっかり質問攻めはずるいぞ。

  俺にだって聞く権利ぐらいあるってことだよな?」


 間違いじゃない。

 でも、絢斗も口が裂けても言えない。


 「亮磨……何でもないよ」

 「あっそう……」

 「さっきはわりぃ」

 「何も悪いことないだろ」

 「……まあ、そうだよな」

 「(絢斗のやつ、焦ってるのか悩んでるのか、やっぱおかしいよな)」

 「何も悩んだりとか……する必要ないんだけどな」

 「!?(え!? 絢斗のやつ、俺の頭の中とか分かるのか?)」

 「ごめん、また独り言みたいに。

  今日はもうこのまま寝るよ」

 

 余裕なく疲れ果てた彼は風呂にも入らずそのまま寝込んだ。


 「zzz……」

 「どんだけ疲れてんだよ」


 起きていてゴロゴロしている亮磨。

 彼は絢斗と反対で彩智に抱いた複雑な感情を言えず、モヤモヤして中々眠ることができない。


 「俺がこうして眠れないのに、絢斗には一体何があったんだろうなあ……」


 それから三十分も経たない間に、絢斗のスマートフォンに一件のメッセージが送られてくる。

 絢斗の枕元にあり、その内容は亮磨でも簡単に確認できるようになっていた。


 「(薄村が絢斗に鬼のように怒りのメッセージでも送ってきたとか?)」


 彩智への感情が混じる亮磨は、初めは見てはいけないと思いつつもその画面をチラリと。

 遠くからではしっかり内容が見えない。

 絢斗は寝ていて気づかず、亮磨は彼に内緒でその画面をこっそり確認した。


 『絢斗君。今日はありがとうございました。

  彼氏のこと、また一緒に考えてくださいね。舞子』


 「えっ!?」


 亮磨は思わず声をあげて飛び上がりそうになるとことを必死に堪える。

 大丈夫だ。絢斗は気づいていない。


 「……こ、これは覇桜 舞子から?

  彼氏のことって……絢斗のやつ、浮気でもするのか?」

 

 

 ◆◆◆



 翌日。

 屋上にて絢斗は舞子に呼び出され、また二人きりで話し合う。

 亮磨は教室で待つ彩智の表情を見ると、昨晩グラウンドで放った覇気がビリビリと感じてすぐに視線を逸らした。


 「(絢斗のやつ、彩智がいるのに本気で覇桜と付き合う気なのかよ?

   ……それなら俺が薄村を貰ったっていいんじゃないの?

   まじでこの数日で一体どうなってやがるんだ)」


 昨晩にその件を聞こうとして、絢斗も嫌がっている様子なので亮磨からはしつこく聞けない。

 クラスメイトも事情を知る人は……彩智は知っているのだろう。

 誰もが二日続けて珍しい組み合わせだとばかり思う。


 まさか、絢斗と舞子が付き合うと、誰も思うはずがない。


 授業開始前には絢斗も舞子も二人教室に戻ってくる。

 その後は普段通り授業を受け、昼食を食べる。

 部活動へ絢斗は一人で行くのか、彩智と一緒に行くのか。

 亮磨は脳内にその件で夢中になり授業の内容が入らない。


 「(普通、薄村も絢斗のことを嫌いになって一緒に部活動に行こうなんて言わないよな……)」


 放課後、亮磨は気になって教室で時間を潰すと、絢斗と彩智は一緒に部活動へと向かっていく光景を見た。


 「(あれ? 一緒に行くぞ)」


 嫌いなんじゃないのか?

 絢斗は一夫多妻制とかそういうことでもするのか?


 普段通り部活動を終え、夕食を食べ終えると自主練習の時間となる。

 亮磨も普段通りジョギングを始めようとすると、外には竹刀を持つ絢斗と彩智の姿が。


 「???

  結局いつも通りラブラブじゃないか。

  それじゃあ覇桜の件って何だったんだ?」

 

 昨晩絢斗のスマートフォンから見た「彼氏」の二文字。

 亮磨は、絢斗が舞子から接近されていると思っていたが、あの様子を見ていると、違和感がある。


 「付き合いたての二人が、簡単に別れるわけがないよな。

  俺の勘違い。……なんで薄村を俺が取ろうとか考えていたんだろう」


 悔しさはあるが、亮磨はまた前を向いた。

 自分には別で良い理想の彼女が現れるのだと信じて。


 

 ◆◆◆



 「彩智……俺さあ、覇桜と明日––」

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俺の竹刀がJKに狙われている件〜性の快楽に溺れた彼女との学校生活〜 名浪福斗 @bob224

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