難問

 「絢斗君、ちょっといいかしら?」


 それは突然のことだった。

 授業の休憩中に絢斗はセミロングの女子生徒に声をかけられた。


 「(学校一超大金持ちの覇桜 舞子はざくら まいこ)が俺に何のようだろ?」

 「で、いいかしら?」

 「あ、ああ」


 巷、特に学校内で知らないものはいない、同じクラスの舞子からの突然の呼び出し。

 偶然か、狙ってか、彩智のいない間に絢斗は彼女に屋上へ呼び出された。

 二人が去った後、クラスでは彼女持ちの絢斗に金満の舞子からアクションがあったと騒ぎ、亮磨は妬む。

 そして二人のことを彩智は後程知ることになる。


 「それで、話って何だよ?」


 二人きりの屋上。

 舞子は絢斗に自分のスマートフォンに保存された一枚の写真を見せた。



 ◆◆◆


 

 「(しっかし、絢斗ばかりどうして女が寄ってくるんだ?

   俺かって彼女の一人とか、友達ぐらいいてもいいんだけどなー)」


 学校が終わり、部活動に精を出したその日の夜。

 亮磨は他のモテない寮生等と愚痴を言い合っていた。


 非リア充の集いの面々は思っていることを言い合い、また明日に備える。

 やけくそに学校より支給される箱ティッシュに世話になろうと掴み、各自部屋へと帰っていく。


 「まあ、それでも部活動では次の他校との練習試合では二軍だけどスタメンで試合出れるから悪いことだらけではないんだよなー」

 

 ジョギング用のシューズを履き、夜の自主練習へ。

 黙々と自主トレをこなしていると素振りをする彩智を見つけた。


 「お……おん? 突風?」


 天気による風はあまり吹かれていない。

 だが瞬間的にビューッと亮磨を縦薙の突風が襲う。


 「あれは薄村? 

  竹刀ってあんなに風が吹くようなものなのか?

  ってか、めっちゃ顔怖いんだけど。

  鬼みたいな形相で……もしかして。

  もしかしてだけど、絢斗が覇桜と昼間会話したのが原因なんじゃないか?」


 竹刀なのに、当たれば人が死んでしまいそうなぐらい、柔らかさと強さが合わさった技は飛ぶ斬撃に進化しようとしている。


 「これって覇気なのか?

  薄村って覇気使いなのか? 

  だから一年なのに大会とか出れたのか?」


 少しずつ突風は強くなり……やがて、終わる。

 自主練習を終えた彩智を見ると、目は赤く充血している。


 「(……どういう状況?)」


 亮磨は思案した。

 そしてたどり着いた。


 「(別れたのか?)」


 絢斗を舞子にとられた。

 もしくは絢斗が彩智を捨てて舞子のところへ行った。


 絢斗は今日用事があると行って、寮から許可を貰い外出中。

 ……つまり、そういうことなのではないか?


 亮磨は笑った。

 これは神が自らに与えた千載一遇のチャンスであると。


 今、亮磨からアプローチを仕掛けて尽くせば、それ愛となって報われると。

 

 彩智が竹刀を片付けて寮へ戻ろうとしているところへ、亮磨は自分も自主トレ終わりであると口実を作って自然と彼女に歩み寄ろうとした。


 「あ、薄村も今終わったとこ? 

  おつかr……」


 話の途中で彼女が振り向き、–ドンッ!–というような威圧感を亮磨へ向ける。

 

 「……。

  ……。

  ……なんだ、亮磨」


 「(……う、う、動けない)」


 「お疲れ様。

  私に何か用でもあるの?」


 「……あるような、ないような。

  そいうえば絢斗は今日は一緒じゃないんだなー、とか」


 その余計な一言が彼女を強める。

 借りた絢斗の竹刀を握撃と言わんばかりに潰しかねない力が、彼女の心情を表して、亮磨は危機を悟った。


 「絢斗がどこに言ってるかとか……亮磨なら知ってるでしょ?」

 「俺は知らないよ」

 「本当に?」

 「本当」

 「そう……夜は寒いから、風邪ひかないでね。

  お休み亮磨」


 去り行く彼女を見て、亮磨は安堵した。

 迂闊に話しかけてはいけない存在だった。


 一人取り残されたグラウンドで亮磨はポツリ呟く。


 「あいつと付き合ってる絢斗ってもしかして、すごいやつなのかも?」



 ◆◆◆



 三星レストランの個室。

 食べたことも聞いたこともないようなフルコースを前に、絢斗はたじろぐ。

 彼と向かい合い、慣れた手つきでフォークとナイフを操り口元へ運ぶ舞子は余裕を持った落ち着きよう。


 腕時計のプレゼントを受けそうになった絢斗は驚き、高いものは貰えないと舞子に謝りそれだけは回避したが……。


 完全に彼女のペースで食事が進んでいた。

 屋上での一件から少しずつ話を聞いて返事を続けるが、それでも彼女は質問の内容を変えても絢斗に話す。


 「それで、この件何だけどね……」

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