悩みごと

 絢斗と彩智は旅行を終えて無事に寮へと帰れた。

 お互い一緒な場所へ行ったことがバレないように、道中の異なる県でお土産を購入し、それを仲の良い寮生や部員に配る。


 疲れて自主練習は行わず、早めに自室に戻る。

 

 「亮磨ただいま」

 「おかえり」


 荷物を置いて自分のベッドにバタンと倒れ、顔を枕に埋めさせた。

 

 「いいなあ〜旅行」

 「……」

 「……満足して疲れて寝る気満々なわけ?」

 「ううん」

 「俺も久々家族と出かけたりってのもいいなあ。

  絢斗はどうだった? 何か良いものとか見れた?」

 「青っぽくて……なんというかわりと豪華? 洒落たのつけてた」

 「はあ? 言ってることがわかんねーぞ」

 「……ホテルの飾りが」

 「そういうことか〜。

  俺もいいホテル泊まりたいな。んで部屋はどうだった?」

 「……結構柔らかかった」

 「柔らかいって、さっきから分かりにくいぞ」

 「……布団や枕が」

 「やっぱそうだよな〜。

  良いとこって高級羽毛とかって言うからな。

  それで今は現実に戻ったってわけだな」

 「……十五歳という現実に戻ったよ。

  ……そうそう、課題も終わってないんだった」



 ◆◆◆



 次の日からは普段の日常に戻る。

 絢斗は授業中を真面目に取り組もうとしてシャープペンシルを手に取るが、中々集中できない。

 

 「(……だって、柔らかいんだもんな……。

  こんな硬さじゃダメなんだよな。

  って、集中しないとな)」


 「絢斗、どうしたの?」


 「!?」


 考え事のつもりが最近の席替えで隣にきた彩智にバレているらしい。

 彼女は小声で一応先生にはバレていない。

 平然を装い、なんでもないアピールだけして集中モードに入る。

 落ち着かせようと心の中で自分に何度も言い聞かせ始めた。


 「(落ち着け……落ち着け……全集中だ)」


 「絢斗、やっぱり変だよ?」


 「!?」


 今度は絢斗から声が出そうになり、必死に止めた。

 彩智はその反応が逆におかしくてクスクス笑っている。

 

 「(彩智め……俺の心を読んでおるな)」

 「(どうしたの絢斗。あれだけじゃ足りない?)」

 「(今は授業に集中しないと。俺は高校生なんだ)」

 「(満足できなかったのかな? ……絢斗が悩んでいるのは私のせい?)」


 絢斗の考え事は一日中続く……かと思われた。

 部活動だけは違った。

 激しく技を打ち、熱心に稽古に取り組む。

 彩智の頑張る姿に魅了され、今度は自分が頑張るのだと努力していた。

 だが部活動が終わればまた日中に逆戻り。

 ゆっくりできる夕食の時は、一緒に食べる亮磨にその異変を気色悪がられる。


 「絢斗?」

 「……ん?」

 「今日は具合でも悪いのか?」

 「いやあ、そんなことないけどな」

 「そっか」


 亮磨なりに気にはかけるが、旅行帰りから様子がおかしいのは気づいていた。

 旅行の時に何かあったのかと勘付きはするが当事者意外に絢斗と彩智が同じ場所にいたことを知る者は……一人を除いておらず、勿論亮磨も知らない。


 「なあ亮磨」

 「おう! どうした?」

 「げ、元気だな……。

  亮磨はさあ、彼女出来たらしてみたいこととかある?」

 「彼女が出来たら?

  そりゃあ……デートとかしたいしリア充満喫したいな」

 「……他には?」

 「他って、……やっぱり、やったりとかじゃない?」

 「やりたいとか、思う?」

 

 亮磨の胸が急に熱くなる。

 未経験な少年の心が動き、年相応な反応から淫らなことを思い浮かべた。


 「そりゃ、そうでしょ。

  なあ絢斗?」

 「俺、俺かぁ」

 「まあ寮生活中の身だからこういうのも難しいよな」

 

 大きく絢斗の心境に踏み込み話をする亮磨へ中々返事がし難い、

 絢斗は薄ら笑いで誤魔化し、二人夕食を食べ終えるとそのまま各々自主練習を開始しようとした。

 

 食堂に置かれたお土産のお菓子がある。

 絢斗はそのクッキーを見て……どこか見覚えのあるようなと。


 「そういえば絢斗、他の生徒からのお土産だって。

  絢斗の旅行と同じ日に行ったんだとよ。

  結構有名なとこのお菓子らしいぜ」


 絢斗はふと我に帰った。

 これは彩智とチョコバナナを食べながら一緒に歩いた通りで売られていたクッキーではないかと。

 

 「へえ……そうなんだ。いい匂いのお菓子だよな」

 「絢斗、まだ袋開けてないのによく分かったな」

 「!? 違う違う。

  中学生の時の他の友達のお土産で食べたことがあるんだよ」

 

 なんとか失態を回避できたか?

 焦る姿を亮磨に見られ、逆に面白おかしく笑われただけならホッとする。

 香ばしい焼きたての匂いを思い出しながら絢斗はお菓子を食べ、ふと考えた。


 このお菓子を買った人物は、一体誰なんだろう?


 「なあ亮磨、このお土産買った人って誰?」


 

 ◆◆◆



 スマートフォンに写る二人の後ろ姿。

 セミロングの女子生徒は、今日も授業中こそこそした二人に執着している。

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