公認
煌めくシャリに大きなネタ。
貝、刺身、軍艦、茶碗蒸し。
絢斗は久々のマグロを、彩智はイクラの軍艦を。
「「「「美味しい〜♪」」」」
「「「「あ……ふふ」」」」
庶民的な店だが美味しいと話題の寿司屋で、四人が偶然ハモリ恥ずかしがる。
「まあ、だって美味しいもの。
ねえ彩智ちゃんのお母さん……智子さん?」
「そ……そうですね、静香さん」
「(まあしゃあないよなー)」
二人きりで旅行なんて不可能だった。
彩智の願いを聞いて後、五月の連休の時に二人は保護者を頼るしかなかった。
お互いがそれぞれ親が迎えに来て、偶然同じ場所へ旅行に行くやり方なら実現はできる。
「♪」
「(彩智も呑気なもんだけど、楽しそうではあるな)」
こうして両方の母親同士がこうして対面して、各々の実家にいる家族も納得の上で親公認のカップルになれた。
彩智もこうして絢斗の家族に挨拶出来たことで、自覚もでき納得の旅行となり満足していた。
令皇高校から新幹線で1時間程の場所にある繁華街。
親同士も遠方から遠出が出来る口実にもなるので逆の意味で絢斗によって家族サービスさせることもできたわけだが。
夕食後に四人で買い物を楽しむ。
店舗の中も見える、歩行者向けの販売店も立ち並ぶ。
親同士は土産を求めて絢斗達とは別行動しホテルで合流することになった。
「絢斗、あれも美味しそう!」
「ん? さっき食べただろ」
「だってあんまり来れないんだから、大会も頑張ったんだしたまにはね」
「まあそれもそうだけどな」
「……私と一緒ってつまらない?」
「いやいや、そういうことじゃないよ」
「一緒に食べよ」
彼女に誘われて絢斗は販売してあるチョコバナナを購入し、二人食べ歩きをして、ホテルへ向かう。
「俺チョコバナナ久しぶりだ。
久しぶりに食べると美味いな」
「はむっ……んふ、んふ、そうだね」
「彩智はまずはチョコを舐めるの?」
「ちょ、ちょちょチョコが甘かったから。へへ」
「確かに甘い」
「本当は他にも舐めたいな」
「りんご飴とか売ってたりするのかな?」
「うーん……」
「ん? 違う?
わたがしの方がよかった?」
「あ、そうじゃなくて……」
「ってかごめん!
俺田舎もんだから夏祭りでよく食べてたものばっか言っちゃった」
「絢斗が謝ることじゃないんだけど……。
でも、夏祭りも絢斗と一緒に行きたいな……なんてね」
「……そうだな、行きたいな」
自分達のことを知る生徒や親はいない。
手を繋ぎ歩き、スマートフォンで二人で思い出を作りに食べているところや人形、観光名所等の前で一緒に写真を撮った。
思い出を作り、また次は夏祭りかな?
二人きりの時間を満喫できた幸せな時間だった。
後ろから男性と一緒に並び歩く女子が、絢斗と彩智を見つけたことには当然気づかない。
「あれは幸精院君と薄村さん?」
セミロングの女子は二人を見て驚き、慌ててその後ろ姿の写真を撮った。
「あ……顔まで写せなかった」
「どうかしましたか?」
並んで歩いていた物腰柔らかな大人の男性が気になり声をかけるが、彼女はそれを無視。
「なんでもない……行くわよ」
「は、はい」
立腹した様子で彼女は絢斗達とは別の方向へと歩み出した。
◆◆◆
少し遅くなって二人は予約していたホテルに到着した。
チェックインして荷物を置いて、ホテルの大浴場に薄村二人は先に行き、絢斗の母は時間差で。
偶然にも誰もいない大浴場で絢斗は一人湯船に浸かり、静かに呟いた。
「……楽しい」
彩智と二人きりで歩き、写真を撮って過ごした時間。
「付き合うって勢いだけでやっちゃったけど。
でも、俺もやっぱり彩智のことが好きなんだな?
夏祭りも一緒に行きたいって考えてるし、俺やっぱ好きなんだな。
付き合ってよかったんだ。
彩智とこうしてまた出かけたい。
いろんな所にもっと行きたい。
……次は俺がレギュラーになって大会で活躍して……、
いやいや、そうじゃない。
そんな風に言えるのは彩智っていうか女子みたいだから。
でも、俺からもどこか行こうとか、もっと格好良く言えるといいんかな?
……亮磨とか周りのことも考えすぎだったのかな。
一度しかない人生なんだから、もっと楽しみたい。
後で彩智とゆっくり話でもしようかな」
顔が赤くのぼせそうになるまで彼の決意と妄想が膨らんでいった。
泊まる部屋は当然別々に用意はされている。
だが、親同士の心配りでしばらくは二人に一部屋で過ごさせ、親二人はホテルに併設されているBarに足を運んだ。
夫の愚痴やら子育ての悩みを二人は酒を片手に楽しく話、初対面とはいえ交流を深めていった。
一方、ゆっくり話をしようと思っていた絢斗と彩智はというと……。
「さ……彩智?」
「ねえケント」
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