ご褒美

 激しい攻防、息つまる展開。

 青春をかけた高校生の試合は見応えばかりだった。


 令皇高校女子剣道部は県の春季大会、団体部門において見事三位入賞を果たし、夏の大会のシード権を得ることができた。


 歓喜の輪の中に一年生で唯一レギュラーとして出場した彩智の姿もある。

 彼女も大会を通して、勝ったり負けたり引き分けたり様々な経験をして最後まで出場できた。


 賞状を持つ部長を中心に大会メンバーの記念撮影。

 絢斗は観覧席から彼女らを見守っていた。


 「すごいな〜。俺もまだまだ頑張らないとな。

  にしても彩智はやっぱ強さだけは本物なんだよな」


 絢斗とは別の場所だが、遠方出身の彩智はそこで知らない者がいないほど剣道においては優秀であり、中学生の時には全国の舞台も経験している。

 一般入試の絢斗とは違い、スポーツ推薦で期待されて入学していて、当初から多くの期待を受けていた。


 「それにしても突きの間合いを考えているって言ってたよな……。

  確かに凄かったけど、あれは痛いんじゃないかな?」


 大会を通して相手から喉元を狙われるようなシーンが何度かあった。

 彼女はそれを姿勢を下げて鼻や口あたりで受け止めて有効打にならないように回避していた。


 実際にはあまり実戦向きではなく、反撃を受けてしまう場面もあるので顧問からも大会後には修正していく話をしたそうだ。

 どうしてそのような回避の仕方をしていたのかは最後まで誰も分からない。

 彼女が回避しながら(実際被る面に金具が付いていて直接当たらないが)口を開いて、竹刀をそれで受け止めようとしていたとは、誰も分からない。


 ◆


 大会前日に一緒に自主練習に付き合っていた時、彼女は不安も抱えていたのを彼氏として受け止めようと努めていた。


 「ねえ……落ちつかない。だからケント見たかったの」

 「俺ならここにいるよ」

 「……ん、……うん? そうだね」

 「うん……?」

 「絢斗……もしもさあ、大会頑張れたら一個お願い聞いて欲しいな」

 「何を?」

 

 突然でもないが、彼女なりの甘えだった。

 出来ることならばと考えて聞くが、中々内容は出てこない。


 「終わったら話すね」

 

 ◆


 大会を終えて寮に戻った絢斗達は、少し休んだ後に各々自由な時間を過ごしている。


 夕食後の夜。

 彩智に呼ばれて絢斗は外のグラウンドへ。

 

 二人自主練習と称して互いに竹刀を持って集まる。


 「彩智、大会お疲れ様。

  頑張ったね」

 「初めはどうなるかと思ったけど、なんとか乗り越えた感じかなぁ」

 「試合中に突きを少ししゃがんで避けてたけど、あれ痛くないの?」

 「全然大丈夫! むしろいいの!」

 「お、おう……顔真っ赤だぞ? 

  興奮してる? やっぱ痛いんじゃ……」

 「痛くないけど、流石に次からは別の間合いを取れるようにしないとね」

 「そうだな。

  でも俺の竹刀で練習してたみたいだから、今回は結果も出たしよかったんじゃない?」


 ニコニコと微笑む彼女を見て、絢斗は安心した。

 少しは役に立てたのかなと彼は思った。


 「私、夏に向けてもこうやって絢斗と二人で練習したい」

 「そうだな」

 「本当は遅い時間まで道場使えるといいんだけどね。

  ここだと他の子もいるから……絢斗と二人きりにはなれないな」

 「まあ管理のこともあるから仕方ないんだけどな」

 「そう、なんだよね」

 

 ふと、彼女は閃いた。


 「絢斗、大会前のこと……覚えてる?」


 甘えたお願いのことだ。

 なんだろうと聞くと……。


 「二人で旅行行きたい」


 少し難しい問題だった。

 前回のデートのように日帰りで行くのならばそこまで難しい話ではない。

 未成年同士で寮生活を送る二人が保護者の許可もなく旅行に行くには学校側の判断も含めて問題がある。

 しかも、同性同士でも難しいのに異性となると話は特にややこしくなる。


 難しさは一年生ながらお互いに分かっている。

 

 「うーん……」

 「やっぱり、だめ? 

  っていうか無理だよね?」


 彼女の顔を見て、なんとも言い難い。

 方法なんて正直ないと思っていた。


 「彩智、二人きりになれるか分からないけどさ。

  少し面倒臭いかもしれないけど……それでもいい?」

 「え、出来るの?」

 

 彩智の表情に希望が湧いてくる。


 「たまには俺も外に行きたいからさ。

  それでも……さっきも言ったようにちょっと面倒臭いかもしれないし、本当に行きたいところには行けないかもしれないけど。

  本当に彩智がいいのなら……」


 絢斗は反対に恥ずかしさもあって手に汗握る状況で、彩智にゆっくりと考えを伝えた。

 


 ◆◆◆



 そして当日となった。

 キャリーケースを持った二人は学校から許可が出て、寮の管理人に挨拶を済ませて出発した。

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