終末、快晴に溶ける

青鳥赤糸@リギル

終末、快晴に溶ける


『ブブブ……ブーン……ブーン……』

 あまり聞きたくない振動。マナーモードに設定した端末からの、着信を告げるバイブレーション。そんな嬉しくないものに叩き起こされてしまった。

 通話せずとも、文章でのやり取りで十分なコミュニケーションができる現代。そんな時代に断りもなしにかかってくる着信なんて、大抵ロクなもんじゃない。

 そんなロクでもない着信でも、自分にとって必要か不必要かは、確認してから取捨選択しないといけない。

「ん……んんん……」

 限界まで目を閉じていたいという寝起きの頭と格闘しながら、枕の周りに手を這わせ、端末を探し当てる。

 寝起きのぼやける目で画面を確認すると、見知った名前からの着信だった。

「ふぁい。もしもし……」

「ねぇ? どうする? 見た……?」

「うぇ……? そんな急に……見たって、何をぉ……」

「調べて。って言っても今端末使ってるか。テレビ、つけて」

 寝起きというのもあって、凄く間延びした返答をしてしまった気がする。

 今思うと、電話越しに相手の声を聞いたのは初めてかもしれない。それくらい今までずっと、文章でのやり取りだけで連絡は完結していた。

 そんな相手からの、突然の着信という違和感。そして、挨拶もなしに本題に移ろうとした違和感。

 そんな複数の違和感を覚えつつ、ベッドから抜け出してリモコンを手に取り、テレビをつけた。

『……の発表では現地時間では深夜頃』

 テレビに映った映像を見ると、少し心臓が跳ねた。

 災害時特有のテロップが流れ続ける画面構成に、スタジオではなく報道局で原稿を読み上げる人の後ろには、忙しなく動いている人が何人も見えた。

 普段流れている朝の番組との違い、そして違和感。脳が急速に覚醒していくのが分かった。

「なにこれ……? どっかで地震? 何があったの?」

「ううん、今は何もないみたい。何かあるのはこれからだって」

「え……? これから、って……?」

『もう一度繰り返します。本日、日曜日、日本時間の午後から夕方頃に――』

 混乱する頭でテレビをかじりつくように眺めた。そこからようやく読み取れた情報は、今日の午後から夕方頃に、地球上の酸素濃度が一気に0%付近まで落ちるということ。

 そして、その無酸素状態はいつまで続くかは分からないということ。

 人間は酸素が無いと生きていけない。酸素欠乏症になるとすぐに気を失い、昏倒し、そのまま呼吸が停止して息絶えてしまう。

 息が止まるほど、意味が分からなくて。呼吸をすることを忘れてしまうくらいの衝撃。

 少しの間、考え込んで。息苦しくなって、思い出したように一度大きく空気を吸い込んだ時、自分は生きていたんだと実感した。

 息が絶えるんだ……。いきなりの知らせは、人類全てへの余命宣告だった。

「ちょ、ちょっと待って、なにこれ? 新手のドッキリかなにか? テレビの電波をジャックしたとか?」

「そんなことなんてしないし、そんなことできる技術もあるわけないじゃん」

「そ、そりゃそうだけど……。ごめん、ちょっと急すぎて」

 この現象が起きてしまう理由も説明されていたけれど、難しくて正直あまり良くわからなかった。

 海外の宇宙に関する施設がこの情報を発表したということで、多分宇宙で何かが起きて地球に影響を及ぼすんだろう。

 物の酸化だったり、有機物の腐敗だったり、不活性ガスが~~。と、色々と言っていたけれど、結局そんな理由を知ってもどうにもならないし……。

 あまりにも超常的で信じられないけれど、疑った所で状況が変わるわけではないのは、今までに見てきた災害の報道で嫌というほど分かっていた。

 だから、信じたくなくても、出された情報を受け入れるしかなかった。

「……ねぇ? 今日の予定どうする……?」

 息が止まるほど意味がわからない状況。呼吸はもちろん、通話中というのも忘れて黙り込んでしまっていた。すぐに頭を動かして返答する。

「あ、あぁ……。ど、どうするって言われても……。こんな状況だし」

「こんな状況だからって言っても、何かすることってある? あたふたして今日一日過ごす?」

「いや……。そう言われると困るけど……」

「ちなみにだけど、交通機関全部止まってるよ。実家に帰るか少し迷ったんだけど、その選択肢は無くなっちゃった」

「あ……。そ、そう……なんだ。どう……しよっか。とりあえず集まる?」

「それがいいと思う。だから電話したし。と言っても、起こすと悪いからこの時間まで待ったんだけどね。予定のギリギリまで寝すぎ」

 そうか、相手は先に起きてこの情報を知っていたのに、この時間まで待っていてくれたんだ。そう考えると、ギリギリまで寝ていた自分に少し腹が立った。

「そうだったんだ……。ごめん……。とりあえず準備するよ。約束してた予定の時間でいいよね? また家出る時に連絡する」

「分かった。それじゃ約束の時間で」

 今までの人生で、一番訳の分からなかった通話を終えた。

 とりあえず、改めて集合時間を確認しておきたかった。

 手に持っていた端末をそのまま操作して、連絡を取っていたアプリを開いて会話を遡る。相手からの連絡で、今回の話題は始まっていた。

『>ねぇ、週末はどうしよっか。』

『<皆予定あるみたいだし、とりあえず二人でいいんじゃない?』

『>ならそうしよっか。とりあえず悪天候だけはやめてほしい』

『<ほんとそれ。晴れるといいよね。』

『>そんじゃ、予定通り日曜の11時集合でよろしく!』

 集合時間を確認して端末を置いた。

 その瞬間、端末から爆音の音楽が流れてきた。

『アラーム 10時 1発目』

 液晶に表示されている文字を見て、やっと普段見慣れているものを見た気がした。

 ちなみに、1発目という表示は、時間をズラして何発もアラームをセットしているからだ。

 そういう意味では、1発目のタイミングでしっかりと起きている自分は、普段見慣れていない姿だった。

 これが非日常に感じてしまう自分が情けないけれどもね……。そんなことを考えながら、後の数発分のアラームを事前に解除して、タオルを準備する。

 毎朝、家を出る前にシャワーを浴びる。今日もいつも通りにシャワーを浴びて、それからいつも通りに家を出る準備をする。

 けれど、今日は頭がいっぱいいっぱいで、シャンプーしたっけ? 体洗ったっけ? となってしまい、何回も全身を泡で包んでしまった。

 髪を乾かして、セットして。家を出る準備が終わり、相手に連絡を入れようとすると、先に連絡が入っていた。

『>ねぇ、終末はどうしよっか。』

 ――困った。触れて良いのか微妙なブラック気味なジョーク。なんて返すのが正解なのだろう。それと同時にモヤモヤしていた頭が少し晴れた気がした。

 今日初めて口角が上がったかもしれない。そういやこんな冗談を普通に言い合えるのが、いつもの日常だったよな。と、思い出すことができた。

『<今日だけのネタだね。』

 きっと、これが普段通りの返答。

 相手も不安でいっぱいな中、明るくしようとしてくれている。ならばこちらもできる限りそれに合わせたかった。

『<準備できた。出れるよ』

『>分かった。ならこっちも向かうね』

 いつも通りの服を着て、いつも通りの靴を履き、いつも通りに玄関を開いて、いつも通りの道順で、集合場所の最寄り駅へと向かった。


 集合場所を遠目から見ると、相手はもう到着していた。少し遠目から、歩きながら声をかける。

「ごめん待った?」

「今着いたよ。この定型文何回目か分かんないや。同じタイミングで家を出てるんだからそこまで待つなんてありえないのにね」

 自分も相手も同じ最寄り駅。駅までの距離もお互いにそこまで変わらない。だから基本的に同じタイミングで家を出ると、同じタイミングで集合場所に着く。

 そんないつもの定型文の会話をしながら、ふと駅の方を見てみると、シャッターが閉まりきっていた。

 日中に閉まっているのを見るのは、かなり違和感があった。

 先に到着していた相手は既に知っていることだと思うけれど、話題にしてみる。

「ほんとに、電車止まっちゃってるんだね」

「あんなの知っちゃうとさ、今日も働こうって思う人、少ないんじゃない?」

「あー……。確かに、そうだよね……」

 交通機関は、大勢の人で支え合って運営されている。数人程度の休みであれば、問題はないんだろうけれど、今回はその穴を埋められないくらいの人数が休んだんだろうと想像ができた。

 本当か嘘かは分からないけれど、今日が最期の日だと知らされて、仕事に向かえる人がどれだけいるのだろうか。日曜日という、家族で過ごしやすい状況も整っていたし、こうなるのはしょうがないのかなと思った。

 人手が足りなければ、満足に運行もできない。そんな事情もあって、大半の交通機関が運行休止になっていた。

 そんな考えを蹴散らすかのように、少し気だるそうに話す相手から話題を振られる。

「さて。ということで、どうしよっか。電車に乗れない以上、当初の予定は無理になっちゃった」

「それなのに集まったの?」

「だってさ、家にいたってさ、することないじゃん? テレビもずっとあんな感じだし。なんにも知らない状態だったら、いくらでも過ごせたんだろうけど、あんなの知ると一人だと心細いし」

「確かに、それはそうだよね。こっちも一人だと気が気じゃなかったかも」

「う~ん……。とりあえず適当に歩こっか。あたふたしてるのもしんどいし、できればいつも通りがいいや」

「そうだね。のんびりいつも通り過ごそっか。今更わざわざこの周辺を歩くとかも無かったし、ちょっと新鮮かも」

 そうして、方向も決めずに、ただただ歩いた。

 少し歩いて分かったのは、案外街はいつもと変わらなかった。

 コンビニやスーパーはちらほらと開いていたし、終末が題材の映画だったりで見るような、暴動や変ないざこざも見かけなかった。

 穏やかな国というお国柄のおかげか、それとも今日が最期になると信じていないからか、本当にいつも通りの日常を送っている人が多かった。

 よく考えると、わざわざ外を歩く時にあたふたする人も少ないか。人と違うことをするのに慣れていない人間は、皆が平静なら自分も平静を装うよね。

 そんな事を考えながら、自分も平静を装い、なんとなく風の向くままに歩いていると、空腹の知らせがお互いの胃から告げられた。

 集合したのが11時、時計を見ると12時前になっていた。

 残念ながらファミレスのような大人数で運営しているお店は閉まっていたけれど、個人でやっているようなお店はちらほらと開いていた。

『本日、営業します』

 そんな中で、こんな張り紙をしていた、何度か来たことのある個人経営のうどん屋さん。

 お互いに食べたいもののリクエストもなく、ここでいいんじゃない? って感じでお店に入った。

「お二人さん? テーブル座っちゃって~!」

 慌ただしく動く愛想のいいおばちゃんに対応してもらい、四人席のテーブルに二人で座る。

 そこまで広くはない店内だが、半分くらいはお客さんで埋まっていた。

 手元のメニューを手に取ると、手書きの紙が挟まれていた。

『本日、日替わりできます』

 今日は日曜日だけれども、平日限定の日替わりランチも注文できるみたいだった。もしかすると、もう日は変わらないのにね。

 なんて、そんなジョークを思い浮かべながら、お互いに日替わりランチを注文した。

 注文を受けたおばちゃんが忙しなくテーブルを離れていくと、相手から話題を振られる。その顔を見ると、少し笑顔だった。

「どうせならさ、ダ・ヴィンチの絵みたいな最後の晩餐が良かったね」

「そう? 個人的には、これくらいいつも通りの方がいいや。和食で締められるなんて凄く理想だよ」

 そんな他愛のない話をしていると、カウンター越しに会話している常連さんとうどん屋さんの声が耳に入ってきた。

「こんな時だってのに、店、開けるんだねぇ」

「こんな時つってもよぉ、こんなに急だと、どうせ何もできやしねぇからよぉ。テレビ見てても、本当かどうかなんて分っかんねぇし」

「まぁ、そりゃそうだよねぇ……。結局、俺ここに食べに来ちゃってるんだもん。最後の晩餐がこのうどんになるなんて思ってなかったよぉ」

「どうせ仕込みも終わっちまってたしなぁ。変わらず今まで通りに過ごすのが一番だよ。いつも通りの味を食ってもらうのが、今まで通りだから開けたまでよ」

 そうだよな……。無理に最期に何かしようとしても、それが望み通りになるかなんて分からないもんな……。

 非日常な最期に、精一杯の日常を。

 そうやって今日を過ごそうと、心に決めた。関わったことは無いけれど、聞き耳を立てただけなんだけれども、今は人生の先輩の言葉が、凄く心強かった。

「は~いおまたせ! 日替わり二つね~!」

 そうして運ばれてきた日替わりランチは、いつもより何故か少しだけ豪華だった。理由は考えないようにした。

「「いただきます」」

 精一杯の日常を意識して食べたうどんは、いつもより少しだけ美味しくて、いつもより少しだけお腹がいっぱいになった。


「うん……うん……。それじゃ、そっちも元気で」

 うどん屋さんを出て少し歩いたタイミングで、実家の家族から電話がかかってきた。

 今思うと、朝起きて、今日起きる出来事に驚いて、そこからすぐに準備して出かけたせいで、今まで連絡をしていなかった。

 少しタイミングが後回しになってしまったが、しっかりと通話で別れを告げた。

 離れて待っていてくれた相手が、近づきながら声をかけてくれる。

「実家の様子、どうだった?」

「2000年を超えることができたんだから、今回も大丈夫だってさ。だから普段通りに過ごすって」

 実家に帰れていたら、いつもの日常だったのかな……。なんて思うけれど、多分帰っていたとしても、皆よそよそしく過ごしたんだろうな。と、想像できた。

 どうせ交通機関も動いていなかったし。それに、多分、今住んでいる街の風景の方が、自分にとっての日常に近い気もした。

 そんなことを考えていると、どうしても少し黙ってしまう。沈黙を嫌ってか、相手が話題を振ってきてくれた。

「今思うと、連絡が普通に取れるって凄いことだよね。そのおかげで、そこまで混乱せずにいられたのかも」

「確かに、そうだよね。満足に連絡が取れるおかげで、誰かと不安を共有できて、皆穏やかでいられたのかもね」

 システムが構築されている機械は、今日の混乱なんて関係なく稼働してくれていた。

 感情の無い機械が、今は凄く心強かった。ありがとう機械。最期まで色んな場所で、今まで通りを演出してほしい。


 それからも、喋りながらのんびりと歩いた。残念ながら、喫茶店のようなゆっくり出来る場所は、通り道では開いていなかった。

 けれど、ゆっくりできる場所に居たとしても、落ち着いていられる自信は無かったし、それならば、ゆっくりと風景が変わる方が気が楽な感じもした。

「そろそろお昼過ぎくらいの時間かな? こんなにの~んびりとしてるの、久しぶりかも」

 背伸びをしながら発する相手の言葉に、会話を合わせる。

「確かに。そもそも散歩自体ほとんどしたことないし、少し新鮮かもだね」

「どうせ電車に乗れないなら、自転車で集合した方が良かったかもね」

「う~ん。自転車なら、どこまで行けたかなぁ……。といっても、行く場所も特に無いもんなぁ……」

 そうして、また沈黙が訪れる。沈黙のたびに、頭に嫌な想像が思い浮かぶ。

 問題の予測時間は、午後から夕方頃と、かなり曖昧だった。

 しっかりとした時間を教えてくれないのは、偉い人たちの優しさなのか、それとも、今の技術では分からないのか。

 多分、完全に予測できる技術があったのならば、ここまで深刻な事態になる前に対処出来ていたような気もする。

 どちらにせよ、専門家に文句を言えるほど自分は偉くもないし、知識なんて一切無かった。

 そんな事情もあってか、文句を言う人もここまででほとんど見かけなかった。文句を言う暇があるのなら、皆、最期の時を少しでも大切にしようと思ったのだろう。

 それにしても、もし本当にこれが最期なのだとしたら、なんて地味なんだろう。

 映画だったりでよくある終末といえば、隕石や核爆弾だろうか。凄く派手に、人類が滅亡する。

 それに比べて、ただ酸素が無くなるだけだなんて、現実にはロマンがかけらもないのかもしれない。

 予兆を感じることなく、突然眠るように昏睡に陥って、そのまま最期を迎える。

 確か、ヨーロッパかどこかの国の安楽死装置が、似たような原理だったはず。装置の場合は自分でボタンを押せるんだけれどもね……。

 酸素が無くなって気圧の問題で頭が破裂したりする。という話も聴いたことあるけれど、実際はそんなことはないと何かで見た気がする。どちらにせよ、意識が無いから分からないんだけれども。

 そう考えると、突然舞い降りた、不幸にも不幸な不幸中の幸いは、恐らく一番楽で、一切の苦しみなく最期を迎えられることだった。

 突然ではなく、自分でタイミングを決められるのであれば、誰もが羨む、本当に理想的な最期。

 でも、そんな最期のボタンを押すつもりじゃなかった自分たちには、いくら一番良い最期であろうと、ただのありがた迷惑だった。

 だからこそ、最期まで精一杯、日常で過ごして、息が絶えるまで、いつも通りでいよう。

 今という時間をただ過ごそう。そう心に誓った。


 歩く街はいつもと違って

 少し彩度が上がって見えた

 こんな日常の風景に

 非日常を感じてしまうのが

 ほんの少しだけ悲しかった


 ゆっくりとお昼ごはんを食べて、そしてまた少し歩いて。時間的には、もう午後と言ってもいい頃合いになってきていた。

 お昼を過ぎたからか、ほとんど人を見なくなった。皆、自分の家でいつも通りの日常を送るのだろうか。

 いや、違うか。徒歩でずっと住宅地なんかを歩く人がほとんど居ないだけだ。自分たちの方がイレギュラーなんだ。

 そんなイレギュラーな自分たちも、とうとう足が疲れてしまった。

 なので、自動販売機で飲み物を買って、公園で休むことにした。

「あちゃ~。このジュース、ハズレだったかも」

 不味そうな顔をして、ペットボトルのデザインを睨む相手は、よく見る姿だった。

「また変なの買ったの? 相変わらず挑戦するね」

「いや、だって安定ってさ、逆に言うと飽きやすいってことでしょ? だから色々なものに挑戦しなきゃ」

「いや、安定は飽きが来ないからこその安定でしょ。そう言って挑戦して、アタリにありつけたの見たことないけどな~。いっつもそんな顔してるイメージ」

「そりゃ、美味しかったら次は挑戦しないじゃん? 美味しいって分かると安定なわけだから、それ以降は優先順位が下がっちゃうってこと!」

「う~ん……。よくわかんないけど、まぁ、それでいっか」

「よしっ! うんていでもするか!」

「えぇ……。休憩で公園に来たのに……」

 それから少し、遊具で遊んだ。

 日曜日の昼下がり。いつもなら子どもたちがいて遊べないであろう遊具を、それなりに堪能した。

 疲れて休んでいるタイミングで、不味かったジュースの話題が掘り返された。

 その結果、ぬるくなって更に不味くなったジュースを無理やり飲ませようとする相手と、鬼ごっこみたいになった。

 行き場はないけれど、生きているのなら、それはいつもの週末の風景だった。

 いつもの、週末の風景だった。


 走り回って、疲れ果てた。よろよろと歩き、地面に座ってうなだれる。口の周りは、不味いジュースの糖分でネチャネチャしていた。

 そんな自分の横に相手も座り、不味いジュースを飲ませることができたからか、上機嫌そうに声をかけてくる。

「ねぇ」

「うん?」

「週末はどうしよっか」

「んー。晴れてよかったね」

「この後は、どうしよっか」

「とりあえず、今は休憩……。毎度毎度、不味いジュースを飲まされると、疲れが凄い……」

「逃げずに飲めばいいのに。最初から受け入れていれば、疲れずに済むんだよ?」

「嫌だよ……。自販機で飲み物買うたびに罰ゲームとか地獄すぎるよ……」

「いつもそれで疲れてるんだから、そろそろ学べばいいのに」

「同じ言葉を返すよ……。いつもハズレを引いてるんだから、そろそろアタリのジュースを引いて欲しい」

「いや、アタリだったら飲ませないし」

「アタリこそ飲ませてよ! ひどすぎるって~!」

「なら今度は、アタリだ。って言ってハズレのジュースあげるね」

「いや、飲んでハズレなら意味ないんだって! 名実ともにアタリのジュースなら誰も困らないんだって!」

 いつものやり取りでいつものように盛り上がり、疲れと笑いが混ざり合って心地よかった。

 呼吸が苦しくなるくらい、大声で盛り上がった。いや、大声なのは振り回されているこっちだけなんだけれども。

 盛り上がる会話の少しの狭間。笑顔の時間が長くて、表情筋が痛かった。そんな笑顔の余韻が残っている顔で

 息を吸って見上げた眩しい空は

 吸い込まれるような快晴だっt












―――――


この作品を題材にした楽曲を公開しています。

https://www.youtube.com/watch?v=3JCRjxLyIyc

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