第2話

 雄慈は放課後にゲームセンターに立ち寄った。

 本当は本屋に行こうと思ったが飛鳥の友達がいるため、少しの間いかないことにしたのだ。


 有名ロボットアニメのロボットが大集合し二対二で戦えるゲームに百円を入れ、ゲームをプレイしていると、隣に女子高生が座った。逆側の筐体は対戦待ちをしており、その女子高生がお金を入れてゲームを始めた瞬間店内対戦へと移行する。


「あ、対戦になっちゃった」


 女子がそんな言葉を漏らしている内に、チームが分かれ向こう側の二人と雄慈と隣の女子で対戦することになる。


「お隣さんよろしくね。って、もしかして同じ学校?」

「どうも」

「私結構上手だから安心してねっ!」


 黒髪のショートカットでボーイッシュな女子は雄慈と同じ学校の制服を着ている。

 だが、教室では見たことがなかった。

 別のクラスか学年が違うのだろうと思いつつ、対戦をしていると、その女子の動きはかなり卓越しており、味方のカバーも上手で文句の付け所がない。向こう側にいる二人は雄慈が始める前から話しながらプレイしていたことから知り合い同士であるはずなのに、初対面の雄慈たちにかなり追い詰められていた。


「そっちの頼むよ。こっち片付けちゃうから」

「あ、CSがそっちに飛んでる」

「はぁ!? これ誘導おかしくないかな! 覚醒でブーストしてたんだよ!」

「こっち落とせるから逃げて」

「はーい!」


 その対戦は勝利して終わった。

 雄慈の中には普段は感じない不思議な感覚が胸の中で動いていた。


「いやぁ、君強いね。観察力があるっていうのかな。指示も的確だし今まで一番相性良かったパートナーだよ」

「そっちこそ女子なのに強くてびっくりだ」

「あー! 女子なのにとか言っちゃいけないんだよ。今時そういうのうるさい人多いんだからさ」

「世間がどう考えようと俺は俺だ。それを変える権利は俺以外に誰にもない」

「確かに! 君は芯がしっかりしてるタイプだね。んじゃ、私ここいらで帰るよ。また一緒にプレイしてねっ!」


 そういうと女子は帰っていった。

 だが、筐体の下には鞄から落ちた手帳があった。

 ピンク色の手帳で実に女子らしいものだ。


「あ、おい!」


 雄慈が気づいて振り向いたがすでにそこに姿はなかった。

 

「ゲーセンに預けるか? いや、学校が同じなら学校で渡すべきか」


 雄慈が手帳を自身の鞄に入れると、とても聞きなれた声が聞こえる。


「何その可愛い手帳。そんな趣味だったのね」

「その声は……」


 見上げるとそこには花音が立っていた。


「なんでそんな嫌そうな声するわけ。さっきまでは楽しそうに女子とゲームしてたのにさ!」

「お前見てたのかよ」

「ねぇ、私と一緒にゲームしたらまたさっきみたいになるわけ?」

「はあ? お前とゲームするわけないだろ」


 興が削がれた雄慈はもう家に帰ることにした。

 ゲームセンターを出てもまだ花音はついてくる。


「お前さ、いつまでついてくるんだよ」

「私も帰り道同じだし」

「……ったく」


 雄慈にとって花音は実に鬱陶しい存在だ。

 一人にしてくれないし目障りなことばかりする。

 どれだけ冷たくあしらっても近寄ってくる精神力だけは見習うべきものがあるが、何が面白くてついてくるのか一切わからなかった。


 住宅街に入り、夕日が道を照らしている。

 周りには人はおらず家からは夕ご飯の匂いが漂っている。

 そんなありふれた日常の帰り道で、雄慈は花音に問いかけた。


「お前さ、いつまで俺にちょっかいかけてくるんだ」

「雄慈が私のことをちゃんと見るまで」

「だから、なんでそんなことをするんだ。そんなことしてお前に何の得がある」

「あるよ。だって私は雄慈のことが――好きになっちゃったから」


 まるで、時間が止まったような感覚を覚えた。

 匂いも、風も、音も、すべてがわからなくなり、花音の言った言葉の意味を何度も頭の中で考えたが、どれだけ考えてもたどり着く答えは同じだった。


「お前……俺の反応を見るためにそんな嘘を」

「嘘じゃない」


 いつもちょっかい出してくる花音の嫌味な表情とは違った。

 真剣なまなざしで雄慈のほうを見ている。


「気づいたの。私は雄慈を振り向かせようとしてた。最初は雄慈がほかの男子とは違って私に対して一切を反応を示さなかったのが面白くなかったから。でも、気づいてしまった。振り向かせてあざ笑いたいんじゃない。振り向いてほしかったんだよ」

「……マジで言ってるのか」

「うん。本気で」


 得体のしれない感情が雄慈の中で暴れる。

 なんて答えればいい?

 いや、答えなど決まっているはずだ。そんな気はないといつも通りに答えればいいだけなのに、初めての感覚が雄慈の思考を止めていたのだ。


「……ふふっ! 今の全部嘘ってことにしといてよ」

「……はぁ!?」

「あっ、結構いい感じの反応見せてくれたんじゃない? 今日は私の勝ちってことで」

「おい、ちょっと待てよ!」

「待たないわ。続きは明日ね」


 花音は来た道を戻って帰っていった。


「あいつ、いったいなんなんだよ」


 よくわからないもやもやを胸に募らせながら、雄慈も帰宅することにした。


 花音は、帰り道で立ち止まり、雄慈がさっきまでいた場所を見てつぶやいた。


「断られなかった。なら、可能性はあるよね」

 

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人嫌いな男子はグイグイやってくる女子たちから逃げたい 田山 凪 @RuNext

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