深夜のドライビングってもっと――ロマンチックだよ、ね。

八五三(はちごさん)

人車一体。

 山には良くないモノたちが住み憑く。

 ――昔は、

 強い力を宿した山には。住み憑く良くないモノたちを祓うことができるモノや。強い力を宿したモノが、自ら祓うことなく眷属に代わりに祓わせたり。

 また、

 強い力を宿した山の近くに住む者のなかから、守り手を選び――守護をさせていた。


 時代が変われば、人間の考え方も変わる。

 過去していた行事など。まったく意味がないということで、行われることは無くなり。そして、忘れさられていく。


 だが、

 人間が忘れただけで、あり――良くないモノたちが消えたわけではない。それどころか、脅威としてより強く存在してしまっているのであった。


「この除霊方法しかないのーぉーおー!」


 少女は叫んだ。

 慣れきった感じで女性は、取り付けられているスピーカーから聴こえる120以上の速い、テンポの楽曲に身体と心が高揚し、ハンドルを無意識に人差し指で叩きながらリズムを合わせていた。


 少女の顔は蒼白。


「ブレーキ、ブレーキ!」


 少女の身体に強烈な減速ジーが。


「なに、よ。もう少し奥まで突っ込みできたのに。まぁーちゃん、怖がりね」

「除霊しに来た方が、ブレーキ踏み遅れて谷底に転落して。幽霊になるって寒い冗談、笑えないわよ! 茉莉花まりかママ!!」


 バケットシートに身体を押し付けられながら、少女――摩志常ましとこ。は、先に走り出した二台のうちの某有名スパイ映画の主人公が、乗っている高級スポーツカーに同乗すればよかったと後悔していた。

 まさにその時、視界に見えた。

 黄色に黒色の曲がった矢印、アルファベットアールの後に続くアラビア数字の標識を。


 運転手は、左足でクラッチペダルを深く蹴り付けながらブレーキペダルをあえて軽く踏んだまま、器用に右足に履いている靴、右側面部分でアクセルペダルを数回、踏んでは離し、踏んでは離しを繰り返している間に。ぱっぱ。と、シフトノブを動かし適切なギアに入れ、クラッチペダルから足を外した。

 そうしているうちに、車はカーブへと近づいて行く。

 ハンドルの感触で、フロントタイヤに十分な荷重が掛かっていることを確認すると。ブレーキペダルから足をアクセルペダルに移動させながら。ゆっくりとカーブの曲線半径をなぞるように、ハンドルを優しく動かしていく。

 だが、

 運転手の運転と違い車は、もうスピードでカーブを曲がっていく。


 摩志常は減速Gの次に横Gと戦うことに。


 カーブを曲がり終わった瞬間、アクセルペダルを軽く踏んで車体後方に荷重移動させる。運転手は座っているシートから車体後方の挙動を感知し、リアタイヤが地面にしっかりと接地していることを判断すると――間髪入れず、アクセルペダルを底まで踏み込んで、急加速しながら、次のコーナに向かって突き進んで行くのでした。




 峠の頂上に二台の自動車が止まっていました。

 メタリックゴールドカラーのGTジーティーアールから、女性が降りてきました。


「調子どうよ、茉莉花」

「正解ね、ひめ機械式過給機スーパーチャージャーに、GTジーティーウィングの組み合わせ!」


 と、

 自動車談義だんぎに花を咲かせている、二人の女性を観ながら。


「…………。深夜のドライビングってもっと――ロマンチックだよ、ね。弦一郎げんいちろう

「いや。まぁ……。除霊がなければです。が、摩志常さん」

「この山で悪戯しているモノを除霊に、来たんだ、もんね。ボンネットにへばり付く、女幽霊を壁に擦り落とすようにカーブを曲がったり。屋根の上乗っている脳みそ丸出しの男性をフルブレーキングで、前方に滑らせて轢いていく。とか、車に取り付けられているパーツにしがみついている子どもたちの幽霊を急加速して、振り落とすことが――仕事だもんね!」

「それで?」

「帰りは。浪漫的ロマンチック深夜の散歩ドライビングを期待してる、わ。弦一郎」

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深夜のドライビングってもっと――ロマンチックだよ、ね。 八五三(はちごさん) @futatsume358

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