深夜の空中散歩

ふさふさしっぽ

本文

 わたしはハト。

 今日もいつものように真夜中の空中散歩に行ってきます!

 え? わたしがドバトかキジバトか、どっちだって? どっちだっていいじゃない、わたしの種類なんて。ちなみにみんなが公園や駅で出会うのは「ドバト」だよ。

 え? ハトは真夜中に飛んだりしないって? 飛ぶハトもいるんですよー。

 ハトは群れで行動するんじゃないかって? 一羽で飛ぶハトもいるんですよー。


 さてさて、今日の散歩では何が起こるかな。


 あ、公園のベンチにいちゃつくカップル発見! たまにいるんだよね、ちょっと驚かせちゃおう。


「……だから誤解だって言ってるだろ」


「そういうことを言ってるんじゃないのっ、あたしが言いたいのは」


 あれ? いちゃついてるんじゃなくて、ケンカ中? 仲直りしなさいよー。

 わたしは彼女の長い髪の毛をくちばしで軽く引っ張った。


「キャー、なにこれ、ハト!?」


「大丈夫か、何でハトが今ここに?」


「いいから追っ払ってよー」


「任せろ。ハトめ、あっちいけ」


 わたしは彼氏に追っ払われる振りをして退散。木の上から様子を見ていると、二人は仲直りした様子。寄り添って帰って行った。

 そうそう、仲直りして、そろそろ帰りなさいよ。


 さて、真夜中の散歩を再開しますか。一羽で月明かりの元、思いっきり飛ぶのって最高だね、いつ飛んでも思う。たまに仲間が欲しくなるけれど、わたしには帰る場所があるから、寂しくないんだよ。


 おや、土手に座る女の子を発見。流れる川を眺めてる。

 いくらここが都会で、近くにコンビニもあるし、夜でも明るいからって、女の子がひとりでこんな時間に危険だなあ。

 わたしは女の子の右肩に、ちょこんと着地した。

 あなたも家に帰りなさいよ。補導されちゃうよ。


「わっ。なに、は、ハト? なんでハトが」


 真夜中に飛ぶハトもいるんですよ、あなたこそ、こんな時間にこんな場所で何してるの?


「はは、可愛い。ハトさん、聞いてくれる? 私、もうすぐ高校受験なんだけど、自信ないんだ」


 高校受験か。じゃああなたは中学生? ますます家に帰らなきゃいけないじゃない。ほら、わたしが送ってあげるから。


「え? どうしたのハトさん、羽をバタバタさせて。あ、待ってよー」


 わたしは女の子の前を飛びながら、女の子の話を聞いた。どうやら受験勉強に行き詰って、土手でぼんやりしていたみたい。

 女の子の家にはすぐにたどり着いた。


「じゃあね、不思議なハトさん」


 受験勉強、頑張ってね。きっと受かるよー。


 女の子が家に入ったのを見届けて、ふたたび夜の空へ。真夜中の散歩も結構いろいろなことが起こる。


 ――さて、そろそろ帰りますか。私の場所に。

 空中散歩を大分楽しんで、わたしは家に帰る。


「大空時計店」


 時計店の看板が、わたしの帰る場所。

 そう、わたしは時計店の看板のイラストなんだよ、驚いた?

 いい加減イラストでいるのが飽きちゃってね、たまに真夜中、抜け出すんだよ。

 今日も楽しかったー。

 あっと、いけないいけない、朝日が昇る。ちゃんとハトのイラストしなきゃ。


――三月。


 わたしはきちんと「大空時計店」の看板イラストを務めている。

 ん? 向こうからやって来るのは……。

 あ、いつかの女の子? お母さんと一緒ににこにこしながら歩いている。

 

「いくらスマホがあるっていっても、きちんとした時計も持たなきゃね。明美も四月から高校生なんだから」


「ありがとう、ママ」


 受験、上手くいったんだね。入学祝に時計を買ってもらうんだね。

 よかったよかった。

 わたしは親子が腕時計を買って、満足そうに帰って行く様子を看板から見送った。


 


 

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