ウーッッ……ガルルルルッ
ナカ
どうして? 何故? そんな疑問が回る。
いつもは愛犬の散歩は兄の仕事だった。
兄は夜勤の仕事をしていたから、昼から夕方のにかけてのいずれかの時間に愛犬を散歩に連れて行ってくれていたのだ。
だが、今日に限って兄が風邪を引いてしまったため、愛犬の散歩はされていない状態で。
比較的聞き分けの良い子だったはずなのに、そんな愛犬が今日に限ってやたらと散歩に行きたがった。
仕事から帰ってきて疲れているから嫌だと断っても、お願いだからと母に懇願され渋々家を出たところで気付けば良かったのだ。
この状況が明らかに可笑しいんだと言うことに。
頭上に広がる空には細くなった月が一つ。
傍に星があるはずなのに、それは街頭の光に遮られて見る事が叶わない。
一定の間隔で設置された電信柱では、不安定に点滅を繰り返す電灯が心許ない灯りを足元へと向けている。
まだ汗をかく時期ではあるが、日が完全に落ちてしまえばそれなりに肌寒い。ましてや今は真夜中と言われる時間帯。幾ら治安が良い地域だからと言って、余り心地が良い時間では決して無かった。
それでも近所のコンビニ向かう人や今漸く帰路に就けるという人の姿が幾らか有る分、まだ気持ちは楽である。そうでなくとも私には中型の愛犬という心強いボディーガードが居るのだ。彼の存在が私に安心を与えているのはいうまでも無かった。
散歩コースは毎日決まったルート。散歩に出られた事でご機嫌になった愛犬が、嬉しそうに尻尾を揺らしながら先導してくれる。
明るい時間とは異なる雰囲気にやはり不気味さは感じるが、愛犬の足取りから思ったよりも早く散歩が終わりそうな雰囲気に思わず笑みが零れた時だ。
「……ウーッッ」
今までご機嫌だった愛犬が突然、足を止め一本の電信柱に向かって唸り声を上げ始めたのは。
「どうしたの?」
異様なほどの警戒心。目視しても私の目には何も見え無い。それなのに、愛犬はその電信柱に向かって唸り声を上げながら威嚇行動を続けたまま。
「……一体、何を……見てる……の?」
その問いに誰も答えをくれない。
何故なら、愛犬は言葉を喋る事が出来ないから。
異様な空気が漂う中、私はそこから一歩も動けなくなってしまう。
早く動かなければと頭では分かっていても、足が竦んで動けない。
もし……ここから一歩でも動いてしまったら……
私は一体、どうなってしまうのだろう。
何も居ないはずのその場所が、今はとても恐ろしく感じ、私はその電信柱から目が離せなくなってしまった。
ウーッッ……ガルルルルッ ナカ @8wUso
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます