【KAC20234】蟷螂の斧

リュウ

第1話 【KAC20234】蟷螂の斧

「一緒に帰ろうぜ」

 同じクラスの正夫だ。

 僕は、別に断る理由が無かったので、「うん」と頷いた。

 通学路である河川敷を歩く、ただ歩いているだけだった。

 同級生と話すことは、全て掌に収まるスマホから得ていた。

 それはスマホと言うフレームを通して見る世界で、現実ではなく、全て架空の出来事のように思われた。人が生きようが死のうが、それは、別の世界と感じていた。

 正夫と話すことは無いのだが、誰かと一緒に何かすることで、自分は孤独じゃないかという不安を打ち消す為に、現実だと、自分は生きているんだと、自分に納得させる為に一緒に歩いていると思った。多分、正夫も同じだ。 

 僕たちは、そのまま歩き続けていると、後ろから突然突き飛ばされた。

 僕ら二人は、前のめりに膝をついた。

「おっと、邪魔だよ」

 見上げると、奴らだった。

 問題の五人組だ。

 転がっている僕らを、一人ずつ蹴飛ばしていく。

 後輩が、こいつらにいじめられて自殺したと訊いていた。

 証拠がない。

 被害者ばかりが調べられる証明しなければならない風習は、なかなか変わる様には見えなかった。

 こいつらが、悪いヤツだって、みんな知っていた。

 学校の先生は、こいつらがとんでもない輩だと分かっているけど、知らないらしい。

 僕は、正夫の顔にびっくりしていた。

 正夫は五人の後ろ姿をに睨みつけていた。

 僕は、正夫の厳しい顔を見たことが無かった。

「じゃ、ここで」

 正夫は無表情で立ち上がり、ホコリを払うと五人の後を追っていった。

 僕は、そんな正夫を見つめていた。様子が変なので追いかけようと思ったが、足が動かなかった。面倒なことに巻き込まれたく無かったからだと思う。


 夜、正夫からメールが来た。

「散歩しないか?」

「今から?」午前零時を超えていた。

 勉強も一区切りし、寝ようかよ思っている時だった。

「気晴らしになるだろ。付き合えよ」

 五人の後を追った正夫のことが気になって頭の片隅から離れなかったので、逢うことにした。

 僕は、着替えると、そっと家を抜け出した。


 さすがにこの時間になると、人通りが無く静かだ。

 二人で河川敷の土手を歩く。

 ひんやりとする空気を吸いながら、しばらく無言で歩いた。

 誰も通らない道を規則正しく並んだ街頭が誰かの為に照らしている。

「実は、これから、奴らと決闘するんだ」

 正夫が、切り出した。

「なんでだよ。勝てっこないだろ」

「知ってるよ、蟷螂の斧ってヤツさ。我慢できないんだ。」

 ひどい目に合う姿が目に浮かんでいた。

「お前は、土手の下に居てくれ。喧嘩の後で助けてくれればいいから」

 正夫は、覚めた顔で言った。

 また、しばらく無言で歩く。

 正夫は、ポケットから紙きれを差し出した。

「これを撮って……、スマホでさ。暗くても見えるだろ」

 僕は、スマホで紙きれの写真を撮る。

 なんだこれ?と正夫の顔を見た。 

「”おまじない”というか、呪文だな」

 僕は、訳が分からない。これは、なんなんだろうと。

「俺が合図したら、この写真を見て声に出して読むんだ。絶対、目を離したり、読むのを辞めたりするな」

 正夫は真剣だった。

「わかった」僕は、呟いた。

 僕は、どうしょうかと悩みながら歩いていた。

 すると、遠くにあの五人が見えた。

 相変わらず奇声を発しながら歩いている。奴らも僕らに気づいたようだ。

 お互いに確認できる位置まで来て、距離をおいて立ち止まった。

「正夫、いい度胸してるじゃないか?二人か?こっちは五人だぜ」

 ポケットに手を突っ込みながら言った。

「俺、一人だよ。こいつは関係ない、手を出すなよ。病院に連れていくヤツが必要だろ」

「確かにぃ」相手は、正夫を睨みつける。


 その時、五人の背後から何かこちらに向かってくるようだ。

 色々な恰好をしているようだ。何かのお祭りを思い出させる。

「なんだ、あいつら」

 と、奴らが僕たちから目を離した時、「今だ」と正夫が僕て手を引いて土手の下に伏せた。

 五人は、僕らよりその行列に興味がある様だった。

「変な恰好してるな。からかってやろうぜ」甲高い声が聞こえる。

 とうとう、五人はその行列を対峙したようだ。

 ヤジが飛びまくるが、段々と悲鳴に代わっていくようだった。

「見るな!おまじないを唱えろ!」正夫が僕に命令した。

 僕らは、土手の下で身動きしないように気を付けながら、スマホの写真を見て、”おまじない”を唱えた。

 目の端に、土手の上を何か動いているのがわかる。

 大勢が土手をを行進している。いつまで続くのだろう。

 声も枯れ始めたころ、大きな赤い球が通り過ぎたようだ。

 それが、最後尾だったと思う。


「おい、起きろよ」

 正夫の声だった。いつの間にか寝てしまったらしい。もう、日が出ている。

「あいつらは?」

「わからん」正夫は、土手の上から周りを見渡す。

「昨日の行列は、なんだったの?」と言う僕の問いに正夫が呟くように答えた。

「百鬼夜行……」

 何それ?と僕は、訊いたが、正夫は黙ったままだった。

 僕らは、じゃぁと片手をあげるとそのまま別れた。

 家に帰ると、ちょうど朝ごはんになっていた。

「どこ行ってたの」と母さんの声。

「ちょっと、散歩」

「最近、物騒だからな、気をつけろよ」父さんが出かける支度をしている。

 僕は、どちらかが答えてくれるだろうと訊いた。

「ねぇ、百鬼夜行って知ってる?」

「ああ、妖怪の行列だろ。百鬼夜行に出会いと死んでしまうらしいな。じゃ、行ってくるよ」

 父さんが答え、「行ってきます」と会社に出かけって言った。

 テレビに目を移すと、さっきまでいた河川敷がテレビに映っていた。

 警察官が大勢で、何かを探しているようだった。

 土手にレポーターが、マイクを持っていた。

「昨日、五人の高校生の死体がこの河川敷で、発見されました。外傷はなく、警察の検証が進んでいます……」

 そして、あいつらの写真が映し出された。

 そういうことか……。


 僕は、それを見ながら、トーストをかじっていた。

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【KAC20234】蟷螂の斧 リュウ @ryu_labo

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