二つの恋の終わりに
If
二つの恋の終わりに
「だったら俺にすれば?」
とんでもない言葉が、薫の口から飛び出して来た。途端に私の足は散歩を放棄する。
「え?」
「苦しい恋愛なんて、やる意味あんの?」
苦しい。薫の言葉がすとんと腹に落ちてきた。そうか、私は苦しかったのか。
「俺も、もう苦しいのは嫌だし」
小さな声で言い添えて、薫はそっと寂しげな笑みを浮かべる。はっとするくらい大人びた表情だった。
「俺、本当はこんな時間に散歩なんかしない。でも、かな
薫は四つ下の幼馴染だ。四つも離れていると自然と恋愛対象からは外れていたし、薫にとってもそうだと思っていた。驚愕で麻痺した脳は、一向に再思考を始めない。
「郁人さんはいい人だと思うけど、かな姉は郁人さんとは幸せになれないと思う」
そんな気はしていた。していたけど、見ない振りをしていた。私は郁人が好きだったから。
でも、私はピアノだって好きだ。半生をピアノに捧げてきた以上、矜持もある。だからきっと薫は正しい。郁人の側にい続けたら、私は永遠に嫉妬に苦しめられることになる。
別れようと思った。郁人には申し訳ないけれど、このままいけば最後にはもっとお互いが傷つく気がした。だから終わりにしよう。そして、薫の手を取ることもしてはいけない。それも同じだ。傷つけたくないし、傷つきたくない。
——苦しい恋愛なんて、やる意味あんの?
薫の問いが耳元で木霊した。
どうして人は、傷ついてまで恋をするんだろう。
答えは遂に、見つからなかった。
二つの恋の終わりに If @If_
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