パパ上様日記 〜誕生日の夜中にて〜 KAC20234

ともはっと

誕生日の夜中にて

 今日は息子の誕生日。すくすく育っていることに感謝する日。

 そんな誕生日に、会社から帰宅し全てを脱いだ私に一声かかる。


「ジュースを買い忘れた!」


 なんてこった。

 帰宅中だったらそのまま買ってきたのに。


「がぶ飲みのメロンソーダがいい」

「さりげない要望っ!」


 確か24時間営業の食料品も売っている薬局があったはず。そこにいけば買えるはず。

 まだ料理は未完成。歩いておおよそ10分程度。駅とは間逆の道を、散歩がてら歩く。

 途中、妙に大きい歯医者の駐車場で人の姿を見ながら通り過ぎる。

 毎日のように聞こえる改造車のぱんぱんっと言う音。銃撃もこんな感じの音なのだろうかと思いに耽る。


「ありがとうございましたー」


 がぶ飲みフロートソーダを購入して同じ道を歩く。

 間もなく冬。夜ともなると妙に寒い。外で寝ようもんなら凍死しそう。服を着ていてよかった。

 遠くから聞こえるぱんぱんっという銃撃に似た騒音。改造車でこの辺りを周回しているのだろうか。


 歯医者の大きな駐車場で、さっきまでなかった影をみながら通り過ぎる。私が寒さにくしゃみを一つした瞬間、どんっと。腹部に衝撃を受けた。


 痛い。


 高鳴る鼓動。

 騒音が銃撃のようだなんて妄想を思ったためか、腹部に感じる痛みは増していく。

 じわりと、口の中に鉄サビのような味も広がってきた。


 腹部を押さえていた手のひらを、ゆっくりと見た。






















 黒い。黒い、なにか。

 私の鼻から血がたらりと一筋流れる。

























「ただいまー。クワガタ連れてきたぞー」

「「なんで!?」」



 くしゃみでお腹の筋肉通を引き起こし、流れた鼻血を必死に押えながら喉へと流れる鉄サビさい血の塊をごっくん。



 散歩がてら帰って来た私とクワガタ。

 息子の誕生日。息子のペット『クワ太郎』が爆誕の日。




















「がぶ飲みメロンソーダじゃない……」



 ……あれ?














 後日。


「ねえ。あそこの歯医者。中年のサラリーマンが凍死してたって話、聞いた?」



 ……え。

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