Change Blossom Fifth

朱ねこ

闇の力

 振り下ろされた大きな耳を受け止め背負い投げる。


「これで、百五十一っ!!」


 最後のうさぎのぬいぐるみにチェリーパワーを込めた拳を叩きつけ飛散させる。

 犬のぬいぐるみは絶望の表情を浮かべている。正常ならば散乱した綿と布きれを見て悪役の如くセリフを吐くところだ。


 犬のぬいぐるみは私の右肩で『なんで国王様がポメ……』と繰り返していた。その視点はうさぎのぬいぐるみではなく、残る二匹の敵に置かれている。


 ラスボスと思える二匹の敵はうさぎのぬいぐるみよりも巨大だ。肩が広く胸が厚く腹筋が割れ上半身は綺麗な逆三角形を描いている。太ももは太く足にかけて細い。


 このでかぶつ筋肉マッチョな犬のぬいぐるみが救うはずの国王様なのだろうか。そうなると、もう一匹は王女さまだろうか。

 国王様が自分の国であるチェリー王国を壊滅させるなんて……。


「本当に、国王様なの?」

「国王様ポメ。もっと小さかったけど、どう見ても国王様と王女様ポメ」

「もっと小さかった? というか、ぬいぐるみなのに筋肉なんてあるのね」

「人間は失礼ポメ! ぬいぐるみじゃないって言ったポメ! 妖精にも筋肉くらいあるポメ!」


 敢えて皮肉を告げると、犬のぬいぐるみの勢いが少しだけ戻った気がする。

 それにしても、国王様たちは何かか何者かによって変わったということだろうか。

 

「ひゃあっ!?」

「ポメ……!」


 マッチョな犬のぬいぐるみに殴られ、後ろに吹っ飛ばされた。私達の動揺なんてお構いなしのようだ。

 右肩に掴まっていた犬のぬいぐるみを落とさぬよう右腕で抱え、空中でくるりと回転し着地する。


 痛いけど身体は動く。ブロッサムの力だろう。


「心当たりはないの?」


 さっきから一言も喋らない国王様たちからは教えて貰えない。

 光の使者でありチェリー王国の民であるポメなら何か知っているかもしれない。


 ちょっとだけ落ち着いた犬のぬいぐるみが唸り声をあげながら考え始めた。


「ポメ! 国王様は一千七百万ヤミーの闇を浴びて闇の力に支配されたのかもしれないポメ!」

「ヤミー? の闇?」

「僕達は昔の慣習により新月の夜に外出することを禁じられているポメ。この王国では月の光がない夜に一千七百万ヤミーを超える闇が充満するポメ。それを吸収すると肥大化し凶暴化してしまうらしいポメ」


 代々伝承され真偽が分からなかったことが今ここで証明されているということらしい。


「ブロッサム、お願いポメ。国王様と女王様を助けてほしいポメ……!」

「うん、そのつもり。ちゃんと助けたら元の世界に帰してよね」

「もちろんポメ!」


 プライドを捨てて嘆願する犬のぬいぐるみを放ってはおけない。

 絶対、国王様と女王様を救うんだから……!

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