田舎でおきた、俺の変化

小花ソルト(一話四千字内を標準に執筆中)

第1話   適応力が高すぎる人

 突然の転勤命令が出て、大都会から引っ越した先で、一番驚いたのは、街灯が一本もないことだった。夜六時を過ぎると、懐中電灯やスマホのライトがないと、周りがよく見えない。七時ぐらいになったら、本当に足元も見えないほど真っ暗だ。


 民家が一軒も建ってないわけじゃないけど、どの家も不用心なことに、夜は無人だった。かなり遠くでポツポツと、米粒のような明かりを漏らす民家の窓が見える、けれども何の慰めにもならなかった。今日もライトを点けたスマホ片手に、夜の散歩と洒落こんでいる……けっこうな距離を歩いた先に、コンビニがあるのだ。ちなみに、この辺に一軒しかない、唯一の店だ。遊びに行きたいときは、車を出すしかない。バス停もないんだぜ、ここ……。


 住人や民家が少なすぎる地域には、街灯が建たないらしい。腹立たしいことだが、今後も街灯が生えてくる予定は無いだろう。


 しかし人は明かりと、人の気配を求める生き物だ。今日も俺は、缶コーヒーを買いに、そして店員さんの明るい挨拶と、ちらほら顔を知っている知人に会いに、小銭を持って、マジで真っ暗な田舎道を歩くのだった。



 今日は野犬がいた。ハッハッハ、という呼吸音とともに、じっと俺が通り過ぎるのを待っていた。


 今日は側溝に誰かがはまっていたようで、うめき声が聞こえた。大丈夫ですかと尋ねたら、大丈夫ですと返ってきたから、そのままコンビニへ向かった。帰り道、誰の気配もなかったから、たぶん大丈夫だったんだろう。


 今日はカエルを踏んだような気がしたが、怖いので確認しなかった。


 今日は背後からずっと足音がしていたが、どうせ知人だろうから、気にせずコンビニで買い物して帰った。


 今日は誰かに足首を掴まれたが、振り払ってコンビニで通販サイト用のカードを買って帰った。


 今日はコンビニくじが当たった。


 毎晩、いろんなことが起きるけど、母さん、俺は元気です。



                              おわり

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田舎でおきた、俺の変化 小花ソルト(一話四千字内を標準に執筆中) @kohana-sugar

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