だから夜は危ないんだってば

ぐらにゅー島

深夜の散歩

「疲れたー…。」

 ふう、っと僕はため息をつくと白い息が目の前を舞った。フワリ、フワリとその白さは周りと混じって無くなってしまった。そんな冬の儚さと、吸った冷たい息が肺をついて胸がひんやりと凍った気分になる。

 靴紐を結び直して、僕はまた一歩また踏み出す。タッ、タッと心臓の跳ねる音と共に僕の足音が暗くて寒い、この街に響き渡る。きっと、この音はずっと遠くの君の家にまで聞こえてしまうんじゃないだろうか。そんな疑問を、思い描きながら…。


ピロン


 そんな可愛らしい機械音が僕のポケットの中からして、ふっと君の顔が思い浮かぶ。君からのメッセージだ。夜の10時半、それは毎日忙しい君が1日の中で少しだけゆとりがある時間。そして、僕にメールを返してくれる、そんな時間。

 僕は、夜が好きだ。夜に、こうやって体を動かすのが好きだ。こうやって動いていないと、君からのメッセージが来るのを待ってソワソワしてしまうから。

 公園のブランコに座り、メールを確認する。君からの、2分前に来たメッセージ。即既読なんて、僕が君を好きなのがバレバレかもしれない。それでも、返さずにはいられいんだ。だって、今、この時間じゃないと君と話ができないんだから…。


【おなかへったー。今電車なう。】


 彼女はそんなどうでも良いような、そんなメールを送ってきていた。そんなの絶対、僕のことが好きだろ。そう思わずにはいられなかった。


《おにぎり作って食べたら?》

【えー。9時以降は食べると太るからやだ。】

《えー。》


 そんな、何気ない会話。それが、心地よかった。


《なんでこんなに僕と毎日はなしてくれるの?》

 

 夜の魔法がそう、僕にメッセージを送らせた。君が僕をどう思っているのか気になったし、単に疲れているということもあって心のリミッターが弱くなっていた。


【んー、だって君って私の信頼している人の友達だから。いい人かなぁ、って思って。】


 ズキンと、心が痛む。


《もしかして、斉藤?》

【あ、なんか今日の地球丸くない?】

《会話の変え方が異次元すぎて笑う》


 そう送りつつ、笑えない。君はずっと斉藤のことが好きなんだから。本当は、ずっとそれに気がついていたんだから。


《そういえば、今空見たけど、月が綺麗だよ》


 夜に外を出歩くのは危ない。それは、こんな告白まがいのことをしてしまうからだ。


【いや、なんでこんな時間に外にいるん?笑】

《え、体動かそうと思ってさ。》


 なのに、僕の言葉は伝わらない。僕の気持ちは伝わらない。

 しょっちゅう、君から僕に斉藤のことが送られてくる。今日は話せた、とか遊びに誘えない、とかそんなことが色々。


《男と話してる時に、他の男のこと話しちゃダメだよ?》

【んー。君は別に私のこと好きじゃないしいっかなぁって。】


 何気ない会話に、僕は傷つく。深夜の散歩は大好きだ。だって、君と話ができるから。深夜の散歩は大嫌いだ。君から、他の男の話が出るから。


 もう、僕にしてくれればいいのにな。

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