主役は御存知あの名探偵の代名詞シャーロックホームズ!
現役時代には理路整然とした極めて現実に則した世界に生きていたホームズが、引退した途端、それ迄排斥していたファンタジー要素に否応なく巻き込まれて、右往左往しながらも、しっかりホームズしているのが個人的にツボでした。
だからこそ違和感なく、いや、原作を読んだ身からすれば違和感ありまくりなのですが、それでも割とすんなり物語に入っていけるのは、これがあるからでしょう。
作中に鏤められた注意書きが、作者様の膨大な知識量を彷彿とさせて、それがお話をしっかりと支えている。
安心して読める良質なファンタジー作品です。
尤も、作中のホームズさんは安心処ではなく気苦労の連続で、その限りではないでしょうが。
同作者の「片方靴の依頼人(赤い靴8)」に続く珠玉のパスティーシュ!
もちろんこの作品から読んでも大丈夫ですが、「ファンタジー×ホームズ」という他にはない設定が楽しいシリーズを読み飛ばしてはもったいない!前作からお読みになることを強くお薦めします。
さて、物語は小気味良いテンポで展開して行きます。
「最後の事件」でライヘンバッハの滝に沈んだはずのモリアーティ教授が、なんと時間を操る魔法薬を持って御伽の国に現れ、結婚式を控えたお姫様と王子様を人質に取ってしまいました。彼の要求は引退したホームズさんを呼びつけること。
すぐにフェアリーゴッドマザーと宇宙兎ビオラちゃん先導のもと、ホームズさんとワトソンさんは御伽の国へ向かいます。しかしその時、教授の攻撃によってワトソンさんが「時進みの薬」を被ってしまい……?!
時間逆行に時間循環。SF好きなら涎が止まらぬこの二つの要素が上手く絡み合い、息つく間もありません。ニヤリとする楽しいシーンがあるかと思えば、突然ヒヤリとするシーンを突き付けられる、心情描写の面から見ても本当に巧みなストーリーです!エピローグも見事!これしかないってくらいの素晴らしい幕引きでした!
ホームズさんのキャラはさることながら、五代目ワトソン(フィフ君)や若きモリアーティさん、御伽の国の住人らしく何処かのんびりしているフェアリーゴッドマザー、宇宙兎ビオラちゃん、皆が皆個性的な良いキャラです。読めばファンになること間違いなし!鳴り止まぬ拍手を贈ります!
特に、作者様の解釈によるモリアーティの過去や彼自身の想い(良心)が伺えるシーンは必見です。
作家の皆様、読者の皆様、ファンタジーだからって油断してはいけませんよ!もうホントに凄いんですから!