トリ目トリ頭の妻はネタが欲しい

おともミー@カエル

これはフィクションであり、実在の物とは一切関係ありません

「深夜の散歩で起きた出来事、ねぇ」


食後のコーヒーを飲みながら、相変わらず興味ないふうの夫ウマは、目の前で眉間にシワを寄せてパソコンに向かう妻トリに目をやる。


いや、本当に興味ないんだけど。いつもはソファーに背を向けてパソコンを打っている妻トリが、珍しくテーブル挟んで真向いを陣取り、先ほどから唸っている。

無視しようにもできない。これは何か声をかけないとご機嫌を損ねて、寝るまで引きずられるパターンだ。面倒くさいな。


「もう、やめたら?お題を777文字でまとめる、なんて無理でしょ」


「そう言われると燃えるタイプなのよね。でも、ネタが・・・」

思い立ったように立ち上がる妻トリ。


「こうなったら今からネタを探しに、夜の散歩に行ってくるだべし」


だべし、って何よ。

やめなさいって。しかもまだ19時過ぎたばかりだし。やだよ俺つきあいたくない。


「大体、トリちゃん夜目がきかないから普段深夜に散歩なんてしないじゃん。無理にネタつくる必要なんてないでしょう」


妻トリは名前の通り(笑)視力が悪い。夜はもちろんの事、雨など降られた夜に外出しようものなら、何もないところでも転倒する。それは何かのコントのように鮮やかに。あれは特技といってもいい。


「夜目きかないんじゃないもん。車のライトが眩しすぎて、目がくらむの!大体何よ、最近の車のライトは明るすぎなんだよ。LEDライトって明るいけど運転している本人はあまり視界明るく感じないんだって。意味ないじゃん!」


「・・・なんでそこで怒るの?」


「大体ね~深夜散歩する人って、危険なんだってば。この前なんて、街灯もない暗い夜道を、真っ黒な上下のウインドブレーカー着てジョギングしている人がいたじゃん?しかも歩道が狭いからって車道走ってさ、危ないってば。反射テープ巻き付けて走れってば。工事現場の誘導員を見習えってばよ」


お前はナルトか。

お題からどんどん脱線しているのに気づけよ。

ちなみに、その黒いジョガーは確かに服装はマズかったかもだが。深夜酔っ払って狭い歩道をよろよろしながら逆歩きしている妻トリを避けるために車道に出ざるをえなかったことを、一緒に歩いていた夫ウマは知っている。謝ったしな。あれは連れて帰るのが大変だったな・・・。


しかし、放置しておけば永遠に一人でしゃべり続ける妻トリに夫ウマは感心する。

これで何故ネタのひとつやふたつが浮かばないのか不思議だ。

一度興味本位で、トリ姉との会話を録音して文字起こししたら、まったく会話が成立していないのに3時間はお喋りしていた。さすが姉妹。・・・ってか、女性のお喋りってこういうものなんだろうか。違うだろうな。


そう、尋ねるとスイッチが入ったのか胸をはる、妻トリ。


「創作はね、ひとつのネタから想像し、妄想し、暴走して爆発して生まれるの。そしてそれを串カツのように、ソースタレに何度もくぐらせ、味に深みを増せて読者を巻き込み感動がうまれ名作が完成するの!くそう、ネタ、カモーン!オープン!!」


なんで、そこで串カツが出てくるんだろう?オープンって、ステータスウィンドウじゃあるまいし。


再び着席し、空になったコーヒーカップを無言で突き出す妻トリ。

コーヒーのおかわり、デスカ?

ネタ探しに深夜の散歩に出るんじゃなかったの?

まぁ、散歩につき合わされなければそれはそれで、助かったけど。


もういちいち突っ込む気も起きず、適当にふ~ん、と受け流すことに決めた夫ウマはコーヒーのお代わりを入れにキッチンへ向かった。


しかし、さすが妻トリ。

三歩歩けば、よろしく。三秒後には忘れるトリ頭。

妻トリといると、毎日が楽しい。


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トリ目トリ頭の妻はネタが欲しい おともミー@カエル @trytomoji

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