クラゲのごとく揺蕩う日々からの脱却

無気力。無意味。無価値。派遣社員・清瀬美月は、低い自己肯定感から職場の男性社員である小鳥遊奏と不倫関係となり、彼が妻と別れるのを待つ日々を送ります。刹那の逢瀬に不満は募るも、幼い頃に水族館で見たクラゲのようにただ流されて揺蕩うだけ。一方、小鳥遊奏もうつ病の妻への対応に苦しみ、美月に癒しを求めていました。
美月はある日、休日出勤と偽る小鳥遊とともに水族館を訪れます。そこで出会ったのはいつかと同じ、照明によって照らされたクラゲたち。誰かに輝かせてもらい、何も考えず揺蕩う様が美しいと思っていたはずの彼らを見たとき、美月の心にある変化が訪れます。否、本当はもっと前から心の軋みに気付いていたであろう彼女は、最後、ついにひとつの決断を下します。
煌めくクラゲ、マリンノートの香水など、視角や嗅覚に訴えかける繊細な描写の数々。そして重苦しい心情描写から一転して爽やかに閉じられる物語は、きっと心に消えない小波を残すことでしょう。必読の価値ありです。