神童と呼ばれた俺が自宅警備員になった訳

chomocho@処女作執筆中

欲望の果てに待つモノ

ヴァンパイア

Not異世界転生・But異世界転生

 新月。暗く、昏き夜。しかしその夜空には大きな月が浮かんでいないからか、小さな星々の煌めきが美しかった。


 その宵闇の中を歩く男が一人。


 近隣に住む者達がその男に下す評価は、愚か、期待外れ、穀潰し、役立たず、他にも様々なものがあるが、総じて酷い内容のものばかりであった。


「やぁ。今夜は夜空が美しいね。さて、覚悟は出来ているかい?今夜こそ、あの日の……深夜の散歩で起きた出来事の精算をさせて貰おうか」


 周囲には、誰も居ない。


 しかし男の耳には、確かにその言葉が届いていた。


 声の主は、ヨの闇に潜むモノ。ヴァンパイア。


 夜の闇に、世の闇に、予の闇に……。闇の中でしか生きられないその存在は、しかして闇の中でなら、どこででも存在する事が可能であった。


 そのヴァンパイアが、どこからともなく男に話し掛けていた。


 精算。


 男はある日、両親の期待からくるストレスに疲れ果て、息抜きにと、夜の闇へと散歩へ出掛けた事がある。


 その時に出会ってしまったのだ。ヴァンパイアと。


 それは、男の知る陽の光の当たる場所には、見付けられなかったモノであった。それに男は歓喜し、手を伸ばした。


 自由、と言う名のヴァンパイア己の心の声に。


 自由を得た男は、それまで両親の言いなりになって励んでいた、否、強制されていた勉学や習い事の一切をしなくなった。


 以来、部屋に引き籠もるようになり、家族が寝静まった深夜にはこうして、散歩へと出掛けるようになっていた。


 いつしか神童と呼ばれていた男は堕落し、周囲の人間からは蔑まれるようになっていた。


 男はその事に、後悔はしていない。


 しかし、自由には代償が必要であった。いつかその精算をしなければならなかったのだ。


 かつて神童と呼ばれた男は、本物の天才であった。


「心臓を捧げる」


 闇に向かい一言。手にした銀のナイフを、自らの心臓へと突き立てた。


 新月の夜。


 男は本物のヴァンパイア魔人へと転生したのであった。

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