父と娘のお散歩

さくらみお

父と娘のお散歩✨🌙✨

 

 これは私の上の娘が一歳の時のお話。


 上の娘は「モチモチの木」の豆太と一緒。

 実家の天井が怖いんだ。


 いつも実家へ帰省すれば使っている八畳の客間。

 そこに私と娘が一つの布団で眠る。

 すると娘は大泣きし始めた。

 理由を聞けば、たどたどしく「天井うえ怖いこあい」というのだ。


 確かに実家は築40年以上の日本家屋。

 木材の節の部分が目玉に見える。

 意識すると……確かに大人でもちょっと怖い。


「こあい、こあい!」と泣き続ける娘。


 ――すると泣き声を聞いて、父が客間へやって来た。


「どーした、寝れねえのか?」

「うん、天井が怖いんだって」


 とにかく泣き喚く娘。

 すると父は言う。


「じゃあよ、俺が散歩に連れて行こうか?」

「え?」

「寝るまで、俺が散歩に連れて行ってやるよ」

「でも、外も怖くて泣いちゃうんじゃないの?」


 と心配しつつ、庭へと連れて行きベビーカーに乗せてみる。

 すると娘は泣き止んだ。


「お、いいじゃん。じゃあ、散歩に連れて行くよ」

「気をつけてよ。ちゃんと街灯あるところにしてよ」

「おう」


 と、父はペタペタとサンダルを鳴らし、体を左右に揺らして、娘を乗せたベビーカーを押して真夏の夜へと消えて行った。




 ――それから30分ほど経った頃。


 父は帰って来た。

 眠る娘を抱っこして。


「寝たぞ。楽しそうだった」

「お父さん、ありがとう」

「おう、お前も早く寝ろよ」


 と言い残し、父は居間へと戻って行く。

 この父の台詞、私が子供の時からの口癖だ。

 まだ22時前。

 大人の私が眠るのにはまだ早い。


 いくつになっても、私はお父さんの子供なんだね。



 ◆



 翌夜も娘は天井が怖くて泣いた。

 豆太の様に昼間は平気な天井も、夜中になるとまるでダメになってしまう。


 すると父はやって来た。

 そして娘をベビーカーに乗せて、眠るまでずっと散歩してくれた。

 真夜中に泣いた時だって娘が眠るまで付き合ってくれた。


 田舎だから歩行者なんて居ないけれど、もしも真夜中にベビーカーを押しているおじいちゃんを目撃した人が居たらきっと怖いだろうな。


 それでも、遠くの国道246号線から響くトラックの寂しいクラクションを聴きながら、真夜中にベビーカーを押す父とクラクションを子守唄に眠る娘を想像すると、なんだか心が揺さぶられて何とも言えない気持ちになったのだ。









「――おい、寝たぞ」


「お父さん、毎日ごめんね」

「いいよ。今しか出来ない事だからよ」


 そうだね。今はもう抱っこも出来ないくらい大きくなっちゃったからね。

 子供の成長はあっという間だね。



「お前も早く寝ろよ」



 でも。


 もう抱っこは出来なくても。

 早く眠らなくなっても。


 私はずっとお父さんの子供で、娘は孫なのだ。

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