いなくなったユニコーン
ちかえ
いなくなったユニコーン
夜中に目が覚めたらユニコーンが家にいなかった。
彼の部屋の窓が少し開いていて、ユニコーンは影も形もない。
なんとなく目が覚めて少し一緒に飲み物でも飲んでからまた寝ようと思って、声をかけに行った結果がこれだ。
一体、ユニコーンはどこに行ってしまったのだろう。
僕が気に食わなくて出て行った、なんてことはないだろう。この間、彼への騎乗が上手くいかなくて落ち込んでいた時に『見捨てない』と言ってくれたのだ。
だとしたら後の可能性は一つしかない。誘拐だ。
ユニコーンは高価な幻獣だから、欲しいと思う人も多い。だから攫ったのだろう。
それとも、彼を人質に僕に身代金を要求するつもりなのだろうか。そんな奴、ただでは済まさない。
とりあえず、そういう関係の手紙を探そう。
まずはユニコーンの部屋をくまなく探し、次は郵便受けをあさる。だが、どちらにも脅迫状的な物は入っていなかった。
だとしたらやっぱりユニコーン自体が目的か。
それにしても、生前、おじいさまが設置した防犯魔法がかかっているこの家からよくユニコーンが盗めたものだ。犯人は実力のある魔法使いかもしれない。用心しよう。
高名な魔法使いだからといって誘拐は許さない!
絶対にユニコーンを取り戻すのだ! 僕のユニコーンを!
改めて窓と扉をしっかりと施錠し、手早くシンプルな服に着替えてから外に出る。もちろん、玄関もきちんと施錠する。
近所を一回りしてみるが、見つからない。
悔しい。僕のユニコーンなのに。あいつは自分が僕の主人とか言っているけど、僕のユニコーンなのに。
これから家に帰るのか。誰もいない家に。僕がおじいさまから相続した家、元々おじいさまと楽しく過ごすはずだった家。今はユニコーンに振り回される生活に少しずつ慣れてきた家。そんな大事な家なのになんだか帰りたくない。
泣きたくなる気持ちを堪えて門を開ける。
なんだかコンコンという音が聞こえる気がする。
まさか、犯人が他の幻獣を探して戻ってきたのか。他には誰もいないぞ。いやそういう事じゃない!
「おい! 僕の家で何してんだよ!」
本当なら様子を伺うべきだったのだろう。だが、怒りのあまり声が出てしまった。
そうして『侵入者』を睨めつける。だが、次の瞬間、ぽかんと口を開ける事になってしまった。
「何言ってんだ、お前が閉め出したんだろ」
僕のユニコーンが、いつも通り、憎らしい口を叩いてくる。
僕はへなへなとその場に座り込んでしまった。
***
「まったく。星が綺麗だったからちょっと散歩してただけなのに、閉め出されたあげく、子守歌まで歌わされるなんて」
ユニコーンが僕のベッドサイドでブツブツ言っている。でも、僕は子守歌なんか頼んでいない。勝手に歌ってるだけだ。そして少し音程が外れている。
「戸締まりはしといてよ。不用心なんだから。それから僕が家主なんだから声はちゃんとかけて」
とりあえず僕の方も文句は言っておく。
「お前、ぐーすか寝てたじゃないか!」
声はかけようとしてくれていたらしい。それなら悪いのは寝ていた僕だ。でも鍵はしなくとも窓は閉めておいて欲しい。
「いい景色がいっぱいあったぞ」
「だったら僕が乗れるようになったら見ようね」
「ま、練習あるのみだな」
厳しいことを言う。おまけにその後で『もう寝ろ』と言って寝かしつけてくる。
まるで僕が赤ちゃんみたいだ。そう思った事がおかしくてつい笑ってしまう。
何を誤解したのかユニコーンが鼻で小突いてくる。
僕はまたそっと笑った。
いなくなったユニコーン ちかえ @ChikaeK
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