第2話
「そろそろ帰るか」
誰かがそう言った。
オレンジジュースやコーラで酔っぱらったキューピッドたちがわいわいと家路についていく。
翌日、連絡係の元にアジアの冥界から返信が届いた。昨夜、私たちが酒を飲みかわしている時間に届いたらしい。アジアの冥界も大変なのだろう……
。
私たち対タナーカさんチームは天啓を受ける時のように静かに連絡係がその返信を読み上げるのを聞いた。
『……判決は地獄行き。供養による情状酌量の余地はなし』
「こっちと同じだね」
『ただ子供の頃に一度だけいじめられていた犬を助けた事がある。蜘蛛の糸措置を検討』
「蜘蛛の糸措置って何?」
「日本の文学作品で、地獄に落ちた泥棒の話じゃないか? 一度だけ蜘蛛を助けていたから、極楽から地獄に蜘蛛の糸をたらしたって話。地獄の中の希望、みたいなニュアンスで蜘蛛の糸って言われる事もあるよ」
「へぇ……じゃあ新しい制度なんだねぇ」
「こっちでもその蜘蛛の糸措置ってのをする?」
「受け取ったってお礼のお手紙を届けてくるね」と立ち去る連絡係を見送り、私たちは相談した。そして、私が代表してタナーカさんに面会をすることになった。
相談の結果を元に、私は死んだばかりの犬をタナーカさんの前に連れて行った。大きくて、冥界のせいで混乱している。だが元は大人しくて賢い犬だ。
犬がタナーカさんに近づくと、彼は露骨に嫌悪感を現した。私たちが彼に貸した『蜘蛛の糸』は傷ついた犬の世話だった。
「何だ、この犬がッ」
タナーカさんは犬を蹴り飛ばした。「キャウンッ!」犬はすぐに私の元に戻ってきた。
「タナーカさん、あなたに再審判がおりました」
「ふん、間違っていただろう?」
「あなたはアジアの冥界でもこちらの冥界でも、地獄行きです」
「は?? おかしいだろう! ここに神を連れてこい!」
「地獄行きの理由は、あなたのそういった態度です。部下を叱責する時、店員がミスした時、子供の成績が悪かった時、あなたは全て人のせいにしていました」
私は案内係の権限を使い、タナーカさんの足元にぽっかりと穴をあけた。彼は重力に従い落下する。
私は彼が地獄に落ちたのを見届けて、犬を連れて神の元へ向かった。時折、こうして死んでから飼い主を待ってここまで来てしまうペットたちがいる。今までは無理やり引き離していたが……。
「神さま、アジア冥界での再審判制度のことなのですが……」
今回の顛末も報告し、条件付きで、この冥界でも動物の霊を受け入れることになった。
蜘蛛の糸制度は、希望という意味のエスポワール制度と名前を変えて限定来てな再審判を受け入れることになった。
「自分で自分の仕事増やしちゃったなぁ……」
少し後悔しながら、私は天国にいる犬の飼い主を呼び出した。こうして天使に呼び出されることはめったにない。
びくびくと怯えていた飼い主は、私の足元で、しっぽをふる犬を見て涙を流した。
でも、こういう光景があるから、私はこの仕事を続けていられる。クレーマーのおかげでより良くなる場合がある。今回はそうだったのかもしれない。
地獄行きになったタナーカさんのおかげだ……!
再審判申請 夏伐 @brs83875an
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