推理作家、深夜の休息に

不明

推理作家、深夜の休息に

 名もなき小説作家の男は机に突っ伏した状態でお腹を鳴らす。

 全く書けぬ。お腹もすいた。

 現時刻午前二時、冷蔵庫を開けてみるが空っぽ。

 『はぁ……』とため息ついても無い物は無い。

 てなわけで、頭のリフレッシュもかねて夜食とコーヒーを買いに近くのコンビニまで歩いていくことにした。

 人も歩いていないし、車も走っていない。静寂に包まれていた。

 やっぱり深夜って最高だな。

 そんな考えをしながら歩いていくとすぐにコンビニに着いた。

 家からこのコンビニまで徒歩三分ぐらい。もう少しこの風に浸っていたかったけど、小説の続き書かないと怒られるしなぁ……さっさと買うもの買って帰ろう。

 店内に入ろうとした時、ふと横目に人影が写る。

 車止めのポールの上に座る制服を来た女性がコンビニの明かりに照らされていた。

 うぉ、ビックリした。人がいたのか。って制服着てるし、体格を見るに高校生か? 何でこんな時間に。

 店内に入る足を止めまじまじと女性を見てると女性はこちらが見ているのに気付いたのか。

「何見てんですか、キモイです」

 さげすんだような眼で、第一声に罵倒してきた。

 こういう奴はスルー一択。関わらない様にコンビニ店内に入り夜食とコーヒーを買って帰る……普通はそうするだろうが。彼女の表情と恰好の異変に気づいた俺には関わる以外に選択肢はなかった。

 コンビニから出るとまだ彼女はまだ座っている。そんな彼女に俺は近づき。

「ほれ」

 余分に買った缶コーヒーを一本彼女に差し出した。

 このままこいつを放置してると変な奴に絡まれるかもしれない。俺って気が利くなぁ。

 そんな俺の感情とは裏腹に彼女は缶コーヒーをはたきおとすと。

「今度はナンパですか? キモイを通り越してゲロキモです」

 今まで冷静を保っていた俺だった、連日の徹夜、疲れ、そして最悪な態度で頭の中でプッチンと何かがはじけた。

「あ? ガキが、警察に通報すんぞゴラ」

 自然と言葉が出ていた。

「もう十七なのでガキじゃないです。そんな貴方こそ通報しますよ‼」

 強く反論する彼女だったが。

「出来るもんならやってみろや‼」

 その言葉で彼女は止まった。

 それもそのはず通報したくても彼女は『出来ない』のだ。

 震える彼女、怯えさせるつもりではなかったが。言っちまったもんは取り消せない。

 一つため息を付くとレジ袋から自分用の缶コーヒーを彼女の前に置いて、叩き落とされた凹んだ缶コーヒーを拾いあげてから一つ離れたポールの上に座ると缶を開け飲み始める。

 コーヒーを飲み込んで数秒、落ち着きを取り戻した俺は彼女にそっけなく伝えた。

「家出してきたのなら早く帰れ。親が心配してるぞ」

 今言ったことにびっくりしたのか、彼女は反射的に。

「な、なんでしってるの」

 と言葉を返してきた。

「酷く口論になり急に家を飛び出した。そのため靴はサンダル、携帯も財布も家に忘れてきた」

「……違う」

 そう言う彼女の言葉を無視して俺は話を続けた。

「こんな真夜中に一人何もせずぼーっと座る女子なんてそうそういない、普通ならスマホを見るだろうし。何よりコンビニの明かりでうっすら見えた目周辺の赤みは泣き後だろう。違うか?」

「……」

 彼女は数分黙り込んだ。その後そばに置いた缶コーヒーを手に取り涙を流しながら見知らぬ自分に喧嘩の理由を話し始めた。

 喧嘩の理由は勉強を頑張っているのに成績が落ちぎみで受験響くと両親にちくちく言われ続け大喧嘩まで発展したらしい。

 俺は静かに話を聞き、落ち着いたところを見計らって帰らせるよう自分のスマホでタクシーをこの場所に呼んだ。夜道を高校生一人で帰らせるのはさすがに気が引けるから。

 話が終わり、間が持たないので夜食の菓子パンの袋を開けると彼女の小さくお腹が鳴る。

「さすがにやんねぇよ。家に帰ってある物食え」

 見せつけながら頬張った。

「……意地悪」

 そう言いながらも彼女は話したことですっきりしたのか顔は笑っていた。

 その後もくだらない話で場をつなぎ、読んだタクシーはすぐにやってきた。

「ねぇ、やっぱり帰りたくない。貴方のうちに泊ま……」

「捕まるわ。アホなこと言ってないでタクシーに乗った乗った」

 万札を彼女に握りしめさせ無理やりタクシーに乗せる。

「ありがとう。クマが特徴的な名前も知らない優しいおじさん」

「おっさんじゃねえまだ二十台だ!」

 くすくすと笑う彼女はそう言い残し、彼女が乗ったタクシーは去っていった。

 帰るに帰れない彼女がコンビニという人目に付きやすい場所にいたのは誰かに見つけてほしかったのだろう。

 さてと、一段落ついて、深夜の空気もたくさん据えたしさっさと帰って小説書き終えますか。

 飲み終えた缶コーヒーをごみ箱に捨て、気持ちを仕事モードに切り替え帰る男であった。

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推理作家、深夜の休息に 不明 @fumei

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