三日月池のほとりで
仲津麻子
第1話三日月の池のほとりで
白い小石が敷きつめられた細道で、歩くとジャリジャリと小石を踏む音だけが響いていた。月も星もない闇の中で、道の白さだけが浮き上がって見えた。
昨日、
早朝から起こされ、長い
もうずいぶん前から、
それ以来、真白は、ふわふわ心がどこかへ飛んで行ってしまいそうな、頼り気のない気分が続いていて、夜になって、布団に入ってもなかなか寝つけなかった。
長いこと無理矢理に目をつぶっていたのだが、ふと気がつくと、布団の中ではなく、見知らぬ場所に立っていた。
真白が住んでいるのは、地方の田園都市だけれど、深夜でも少しは車が通るはずだった。それが車どころか、生き物の気配さえない。あたりはしんと静まり返っていた。
不思議と闇は恐くなかった。なぜか。この道の先へ進むべきだと、本能が訴えていた。
真白はゆっくりと歩いた。フランネルの夜着を着ているせいか、寒くはなかった。ジャリジャリと石を踏む音だけが聞こえていた。
しばらく歩くと、開けた場所に出た。そこには三日月の形の池があった。
暗闇の中で、そこだけが薄ら明らんでいて、水面がかすかに波立っているのが見えた。
既視感があったのは、先日本家から送られてきた、ひいな飾りの前庭にあった池に似ていたからだろう。
真白は、吸い寄せられるように、池のほとりに立つ三本の木に近づいた。
一番手前にあった木は、真白の背丈の三倍ほどもあって、大きく丸い葉を茂らせ、枝が四方に広がっていた。
真白はそっと木の幹に手を触れてみた。なんとなく、そうしたいと思ったのだった。
幹は意外にも、ほんのり暖かく、触れていると内部の静かな鼓動が感じられた。
ドクドクドクという規則的な鼓動は、やがて真白の心臓の音に重なって、懐かしいような感覚が、体中に巡るような気がした。
それと同時に、ずっと真白が感じていた、ふわふわしていた不思議な感じが、木の中へ吸い込まれて、しだいに気持ちが落ち着いてきた。
まだ六歳でしかない真白の中に、いにしえから続く
種はまだ真白の中に届いたばかりで、芽吹き育って、花開くまでには時間が必要だったが、幼い彼女の中に、確実に浸透していった。
「緋衣様、緋衣様」
枕元で慈子の声がして、真白は布団の中で、眠りから覚めた。
三日月の池にいたとばかり思っていたが、あれは夢だったのか、真白は首を傾げた。
「まだ、眠い」
真白は、目を
「裳着の儀式でお疲れでしたでしょうけれど、朝食を召し上がらないといけません」
慈子はそう言って、やさしく真白の背を支えて、体を起こした。
※
(終)
三日月池のほとりで 仲津麻子 @kukiha
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます