蠢く影の頼み事
八咫空 朱穏
蠢く影の頼み事
扉に付いているウィンドチャイムを響かせて夜の世界に踏み出す。時刻は午前0時を回ったところだ。これから、故郷の樹々の健康診断に向かう。毎回片道6時間、道中の移動を小旅行として楽しんでいる。一番最初の旅程はこの村にあるテレポート装置――転移陣までの散策だ。
今は月明かりがあるからランタンに光を灯す必要はないねぇ。さぁて今夜は、どんな
路地から通りに出て、鳥居をくぐって石段を上る。神社にお参りをしに来たわけではないので、境内の端っこを歩いて行く。境内の奥、細い道の先に村の転移陣が設置されているから、こうして境内を突っ切っていく必要があるのだ。
夜の境内は不気味な雰囲気を
境内を半分程歩いたところで視界の端に何かが動く気配を
――その影が、こちらへと向かってきた。
一瞬ゾッとするが、幸い月明かりがあるおかげで影の正体がすぐにわかって安心する。
「フェネル……。こんなとこで、会うなんて……」
影の正体は、この神社の
「何かと思ってちょっと怖かったよぉ」
「ごめんなさい……」
「いやいや、大丈夫だよぉ。でも、珍しいねぇ? こんな時間に外を歩いているなんて」
少しだけ考える素振りを見せ、藍花が答える。
「なんとなく、外を……歩きたかった、から……」
「そういうとき、あるよねぇ。私も、今その気分なんだぁ」
私が故郷に仕事で
「話、変えちゃう……けど、いい……?」
「ん? いいけど、何かあるのかい?」
「朝に、なったら……頼もうと、思ってた……ことが、あるの……」
「なんだい?」
「時間の、ある時で……いいから。神社の、樹を……
いつものやつ、だねぇ。
樹々を診る仕事は故郷以外にもいくつかある。今いる神社からも定期的な依頼を受けていて、今回頼まれたのもこれのことだ。……こんな時間にお願いされるのは初めてだけど。
「それならお安い御用だよぉ。時間の空いたときに診に来るねぇ」
「うん、ありがとう……。フェネルは、これから……どうするの?」
「これから仕事をしに行くんだぁ」
「頑張ってね……」
「うん、頑張るよぉ。それじゃ、またねぇー」
藍花と別れて、散策を再開する。
様々なことが起こる小旅行。旅行中は毎回違う出来事が起こるから楽しい。散策はもうすぐ終わるけど、まだ小旅行自体は始まったばかりだ。
この後は、どんなことが起きるかなぁ?
蠢く影の頼み事 八咫空 朱穏 @Sunon_Yatazora
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